05:天宮くんは双子らしい
「……22ポイントかぁ……」
放課後。
わたしはハッピーポイントアプリを見て、ため息をついていた。
わたしのアプリと天宮くんのアプリはつながっているから、二人で集めたポイントがまとめて見られるんだ。
わたしが落とし物のハンカチを先生に届けて20ポイント。
天宮くんが空き缶を二つ拾って2ポイント。
休み時間になるたび学校中を歩き回っても、二人で集められたのは、たった22ポイントだけだった。
「うう。こんな調子じゃ、100万ポイントなんて絶対無理だよお……」
「どうしたの、風花ちゃん。大丈夫? 傷が痛むの?」
机に突っ伏して嘆いていると、友達の新田紗彩ちゃんが声をかけてきた。
紗彩ちゃんは眼鏡をかけてて、黒髪を肩につかない程度の長さで切りそろえてる。
「ううん、大丈夫だよ! 心配してくれてありがとう」
昨日のラインでも、わたしが救急車で運ばれたって言ったら、すごく心配してくれてたもんね。
これ以上心配かけたくなくて、わたしは慌てて起き上がった。
「それならいいんだけど……」
「新田さん。お話中のところ、失礼するわね。わたしたちも少し、倉地さんとお喋りしたいの」
いきなり割って入ってきたのは、早乙女さんだった。
ふわふわ波打つ茶色の髪に、ぱっちりとした大きな目。
モデルみたいな体型の彼女の隣には、二人の女子がいる。
彼女たちは『天宮くんファンクラブ』の会員で、早乙女さんはファンクラブの会長だ。
「本当は放課後になる前に、お喋りしたかったのだけれど。あなた、休み時間になる度にいなくなっていたでしょう?」
「あー、ちょっと用事があって……それで、話って、なに?」
「今朝、転んだ天宮くんを保健室に連れて行ってあげたんですってね。倉地さんって、優しいのね」
早乙女さんは、ニッコリ笑った。
「……それはどうも……」
「で・も」
わざとらしく言葉を区切って、早乙女さんはズイッと顔を近づけてきた。
「手を繋ぐ必要はなかったんじゃないかしらねえ?」
(ひええ、近い!! 近いってば!!)
美人のドアップって、迫力がある!!
「いや、手じゃなくて手首を掴んだんだけど……」
思わず仰け反りつつ言ったけど、早乙女さんのニコニコ笑顔は崩れない。
「あんまり天宮くんと仲よくしたらダメよ? わたしが作った『天宮くんファンクラブ』には『抜け駆け禁止』っていう絶対のルールがあるの。だからみんな、近づきたい気持ちを抑えて、遠くから天宮くんを見守ってる。そんな慎ましいわたしたちをさしおいて、抜け駆けするようだったら……わ・か・る・わ・よ・ね?」
「ひぃぃっ、もちろんわかってます、大丈夫ですっ! 彼とはただのクラスメイトですから!! それ以上でもそれ以下でもありません!!」
どんどん近づいてくる早乙女さんたちが怖くて、わたしは早口で言った。
すると、早乙女さんたちはニッコリ笑って、ようやく身体を引いてくれた。
「ええ、これからも是非、そのままの関係でいてね?」
「くれぐれも、よろしくね?」
「……はい……」
……っていうか、本当に天宮くんとわたしは、ただのクラスメイトなんだってば。
でも、天宮くんは人気者だから、一緒にいるとファンの子たちに文句を言われちゃうのか。
あ~、面倒くさ~~~!!!
「……風花ちゃん。さっきの話、本当? 天宮くんを保健室に連れて行ってあげたの?」
早乙女さんたちがいなくなって、ぐったり机に突っ伏していると、紗彩ちゃんが聞いてきた。
「うん。登校中に、天宮くんが転んだのが見えたから」
わたしは気を取り直して、起き上がった。
「そう……」
紗彩ちゃんは何か考えるような顔をして、窓際にいる天宮くんとわたしを交互に見た。
天宮くんは自分の席でスマホをいじっている。
少し赤くなった顎の絆創膏を見てると、胸が痛い。
――やっぱり、わたし、早乙女さんたちに何を言われても負けない。
誰がなんと言おうとそばにいて、天宮くんを守ってみせるんだから!
「風花ちゃんと天宮くんのペアかあ。うん、意外とありかもね」
「へっ!?」
紗彩ちゃんにいきなりそんなことを言われて、頭の中が真っ白になった。
「なんでっ!? そんなの、なしだよ、なし!! だいたい、天宮くんだって、相手がわたしじゃお断りに決まってるよ! 『月とすっぽん』ってやつだよ! もちろん、月なのは天宮くんのほうね! 名前も月都くんだし、ぴったりでしょ!?」
「……ふうん。天宮くんの下の名前も知ってるんだ?」
紗彩ちゃんは右手で眼鏡を押し上げた。
キラーンと、眼鏡のレンズが光って見える。
「いや、だって、入学式で新入生代表挨拶してたし! 『氷の王子様』として有名だし! 普通、覚えてるでしょ!?」
「そうかなあ? 同じ小学校に通ってたならわかるけど、水葉では彼を下の名前で呼ぶ人、いないでしょ? ファンクラブの人たちだって、みんな『天宮くん』って呼んでるし」
……ん?
「それ、どういう意味? 小学校では、下の名前で呼ばれてたの?」
紗彩ちゃんと天宮くんは小学校が同じだったって、前に聞いたことがある。
だから紗彩ちゃんは、わたしが知らない過去の天宮くんを知っているんだ。
「うん。双子のお兄ちゃんがいたからね。苗字で呼んだら、ややこしいでしょ?」
「……天宮くんって、双子なのっ!?」
衝撃すぎて、わたしはまた仰け反っちゃった。
「そうだよ。小6のときは、旭くんとも、月都くんとも、同じクラスだったんだ」
なんでもないことのように、紗彩ちゃんは、あっさりとそう言った。
「……お兄ちゃんは旭くんっていうんだね……」
あ、もしかして。
わたしが名前で呼んでほしいって言ったときに「風花」って呼んだのは、天宮くんにとっては下の名前で呼ばれるのが普通だったからなのかも?
「え、でも、水葉に通ってるのは天宮くんしかいないよね? それとも、旭くんって、別のクラスにいたりするの?」
わたしは机に両手をついて、身を乗り出した。
怪我をしている右ひじが『痛い!』って悲鳴をあげたけど、そんなのお構いなしだ。
だって、めちゃくちゃ気になるんだもん!!
「ふーん? やっぱり気になるんだ?」
紗彩ちゃんはニヤニヤしている。
「……いやっ、気にならない! なってないもん!!」
わたしは急いで椅子に座り直した。
「またまたあ。同じ小学校だった子は多分みんな知ってるだろうし、天宮くんにも『言うな』なんて言われてないからさ。気になるなら教えるよ? 旭くんがいまどこにいるか――」
「教えなくていいよっ! もうっ、わかった! 天宮くんの話は終わりっ!!」
「えー」
なぜか、紗彩ちゃんは不満そうだった。




