04:タイムリミットは49日!?
天宮くんが向かったのは、四階建ての校舎の屋上だった。
緑のフェンスで囲まれた屋上では、緩やかな風が吹いている。
園芸部が手入れしている花壇の花が、気持ちよさそうに揺れていた。
「誰もいないみたいだな。――ハク、出て来い」
天宮くんが花壇の縁にカバンを置いて、そう言うと。
ぽんっという音がして、天宮くんの近くにあった光の玉が、白い狐に変化した。
「いやあ、さっきは災難じゃったの、月都! あんなに見事にすっ転ぶ人間、十年ぶりくらいに見たわ!」
「笑い事じゃない。おれの『生存力』、下がりすぎだろ」
「我はちゃんとリスクを説明したぞ。それでも風花を蘇らせると決めたのは月都じゃろ。我に文句を言うのは、お門違いというやつじゃ」
天宮くんが不満そうな顔で黙り込んでいる間に、ハクが空中を歩いて、わたしの目の前に来た。
「さて、倉地風花よ。これからおぬしたちにやってもらう『ハッピーポイント集め』について、詳しく説明してやろう」
ハクが左前足で、くいっと額の鏡を押し上げた。
朝の太陽の光に反射して、割れた鏡がキラリと輝く。
「キヨミズノミコト様のご神体であるこの鏡を直すには、強大な神力が必要じゃ。たくさんの人々にキヨミズノミコト様を敬ってもらうのが一番良いのじゃが、それは難しいじゃろ? そこで、効率よく神力を集める方法として編み出したのが、ハッピーポイントじゃ。ほれ、月都。昨日書いた、あれを出せ」
ハクが前足を振ると、天宮くんはカバンから一枚の紙を取り出した。
きっと、ハクの代わりに天宮くんが書いたんだろう。
お手本みたいな綺麗な文字で、そこにはこう書かれてあった。
【ハッピーポイントのルール】
一、誰かの『心からの感謝』や『徳を積むこと(←つまり、良いことをすることだ)』が神力になる。
一、困っている人を助け、その人が幸せ(ハッピー)になればポイント加算。
一、ただし、見返りを求めたり、無理やり感謝させたりしても、ポイントにはならない。
「……つまり、ボランティアをすればいいってこと?」
わたしが首をかしげると、天宮くんはうなずいた。
「まあ、そんなところだ。ハクは人間の『強い願い』や『困りごと』を感知することができる。そこにおれたちが行って、悩みごとを解決する」
「そしたらハッピーポイントがたまるんだね! わかった、頑張るよ!」
「風花、『すまーとふぉん』は持っておるか?」
ハクが金色の目で、わたしをじっと見つめた。
「すまーとふぉん? ああ、スマホのことね。持ってるよ」
わたしはカバンからスマホを取り出した。
「ちょっと貸してみい」
ハクはわたしの手からスマホを受け取った。
小さな狐が肉球のついた手でスマホをいじる姿って、可愛いな。
なんて、のんきなことを思っていると。
カッ――!!
ハクの額の鏡と、わたしのスマホが同時に光った!!
「えっ!? ちょっと、わたしのスマホに何したの!? スマホって、すごく高いんだよ!? まさか壊してないよね!?」
わたしはハクの両手(正しくは両足)からスマホをひったくった。
「心配するな、壊してはおらん。月都のすまーとふぉん……スマホに入れたアプリと同じものを入れてやったんじゃ」
画面を見ると、知らないアプリが入っていた。
「……ハッピーポイントアプリ……?」
アプリの上部には、【現在のポイント:0pt】と表示されている。
その下には【目標まで残り:1,000,000pt】という、めまいがするような数字が並んでいた。
「えーと、いち、じゅう、ひゃく……」
「いや、コンマが2つあるんだから100万ってすぐわかるだろ」
わたしの言葉をさえぎって、天宮くんが言った。
「100万!? ハッピーポイントって、そんなに簡単にたまるものなの?」
「まさか。道に落ちているゴミを拾ったら1ポイント、迷子を助けたら100ポイント ってところだ」
天宮くんが絶望的なことを言った。
「嘘でしょ!? それで100万ポイント集めるなんて、難しすぎるよ!! 毎日ゴミ拾いしても何年かかるの!? 無理だって!!」
「残念ながら、難しいとか無理とか言っておる場合ではないぞ。――良いか、倉地風花よ。これはおぬしの命に関わることじゃ。いまから我が話すことを、心して聞け」
「はい」
ハクに言われて、わたしは背筋を伸ばした。
反射的に身体が動いてしまうくらい、天宮くんの顔と、ハクの声が真剣だったんだ。
「いまのおぬしは、月都が集めていたハッピーポイントと、月都の生存力。それに加えて、我が『前借り』したキヨミズノミコト様の力を使うことで、千切れかけた身体と魂との『縁』を無理やり繋いでいる状態じゃ」
「まえがり?」
言葉の意味がわからず、わたしは天宮くんを見た。
「まだ働いていない分の金を、将来働くと約束して受け取ることだ。今回の場合は、金じゃなくて神力だけどな」
「なるほど」
うなずいて、わたしはハクに視線を戻した。
「キヨミズノミコト様が我に言った『前借り』の返済期限は49日。49日以内に目標を達成できなければ、おぬしの『縁』は完全に切れる」
ハクは左前足で、わたしの胸――心臓のあたりを、ビシッとさした。
「……それって……」
顔からサーっと血の気が引いていくのが、自分でもわかった。
「……倉地が死にかけたのが、5月13日。それから49日以内……つまり、6月30日の24時までにポイントを集められなかったら。今度こそ、倉地は本当に死ぬことになる」
「いやぁぁーーーーっ!!?」
わたしの絶叫が、屋上に響き渡った。




