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ハッピーポイント集めます〜わたしの余命は49日!?〜  作者: 天咲リンネ


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23/24

23:太陽と月

 三十分後。

 わたしと旭くんは、公園のベンチに並んで座っていた。


「ごめんね、さっきはひどい態度を取っちゃって」

 ぐすん、と鼻を鳴らしてから、旭くんは小さく頭を下げた。


「うん……でも、どうして? 謝るってことは、わざとだったんだよね?」

「……ぼくは月都の前では『嫌なやつ』じゃないといけないから。月都が、ぼくを心置きなく嫌えるように。それくらいしか、してあげられないんだよ」

 涙が旭くんの頬を伝い落ちていく。

 顔がそっくりだから、まるで月都くんが泣いてるみたいで、変な感じがする。


「なんで嫌われなきゃいけないの? これ、あげるから使って」

 わたしはカバンからハンカチを取り出して、旭くんに渡した。


「ありがとう……なんでかっていうとね。これは罰なんだ。月都を傷つけた罰」

 ハンカチで涙を拭って、旭くんはうつむいた。


「自慢じゃないけど、ぼくはなんでもできたんだ。勉強も運動も、剣道やピアノだって。親や友達はほめてくれたよ。『お前はすごい、天才だ!』って。みんなからほめられるのが嬉しくて、ぼくも頑張ったよ。でも……ぼくが頑張れば頑張るほど。ほめられればほめられるほど。月都の笑顔が消えていくことに気づけなかったんだ」

「ああ……旭くんと同じクラスだった友達が言ってたよ。覚えてる? 新田紗彩ちゃん。いま、わたしと同じクラスなの」

「覚えてるよ! そっか、新田さんと同じクラスなんだね。じゃあ、ぼくらがどんなふうに比べられてきたかも、聞いてるよね……」

 旭くんは遠くを見るような目をして、続けた。


「小学四年生のときだったかな。ぼくは思い切って、テストで0点を取った。ぼくが『できない子』になれば、月都は楽になれると思ったから」

「えっ、0点を……?」

「うん。でも、先生にも親にも怒られた。それだけじゃない。月都にも、泣きながら突き飛ばされたんだ。『ふざけるな、おれを馬鹿にするな!』って」

 旭くんの目に、じわじわと涙が浮かぶ。

 

「どうしたらいいのかわからなかった。100点を取ってもダメだし、0点を取ってもダメ。80点くらいならいいかなって思っても、手を抜くなって、月都に怒られちゃう。でも、100点を取ったら月都から笑顔が消えていくの。たくさんあった夜空の星が、一つずつ消えていくみたいに。ぼくのヒーローが、ぼくのせいで、笑わなくなっちゃった……」

 ボロボロと、涙があふれてこぼれ落ちていく。


「ヒーローって?」

 わたしはティッシュを旭くんの手に握らせた。


「五年くらい前に、テレビで『スマイルマン』っていう変身ヒーローやってたんだけど、知らない?」

 ティッシュで鼻を擦ってから、旭くんは言った。


「知ってる。みんなの応援を力にして戦うヒーローだよね。誰も応援してくれなかったら弱いけど、たくさんの応援があれば無敵になれるっていう。たしか、最後は地球に巨大隕石が落ちてくるんじゃなかったっけ? それで、地球のみんなの応援を力に変えて、スマイルパンチで粉砕して、ハッピーエンド」

「そうそう。くわしいね」

 旭くんはティッシュを丸めてポケットに入れ、嬉しそうに笑った。

 あ、いまの笑顔は、ちょっと月都くんに似てるかも。


「月都はスマイルマンが好きでね。お父さんにグッズを買ってもらったりしてたんだよ。変身ベルトをつけて、こう――変身、スマイルマン! って」

 旭くんはハンカチを横に置いて立ち上がり、ポーズを取ってみせた。


「ぼくは気が弱くて、いじめられっ子だったんだ。ぼくが泣いたり、困ったときは、月都がいつも助けてくれた。月都は笑って言ったんだ。おれには旭がいるから、旭の応援があるから誰にも負けないって。すごく格好良かった。月都はぼくのヒーローだったんだよ。それなのに……」

 旭くんは言葉を切った。

 そして、ベンチに力なく腰を下ろし、ハンカチで目元を押さえた。

 わたしは旭くんが泣き止むまで、ただ黙ってそばにいた。


「……ねえ、旭くん」

 旭くんが落ち着いたタイミングを見計らって、わたしは声をかけた。


「なに?」

 不意に吹きつけた風が、旭くんの短い髪を揺らして通り過ぎていく。


「旭くんは、月都くんのことが好きなんだね」

「当たり前でしょう。ぼくらは生まれたときから一緒なんだから。大好きに決まってるよ」

 旭くんは泣きながら笑った。


「月都はきっと、ぼくのことなんか大嫌いだろうけど……」

 旭くんの涙が、胸に突き刺さる。


(旭くんは月都くんのことが大好きなのに。どうして気持ちがすれ違っちゃうんだろう)

 悲しくて、苦しくて、仕方ない。


「さっきは、月都を馬鹿にするなって怒ってくれてありがとう。月都にはラインも電話もブロックされてるから、水葉でうまくやってるのか心配だったんだけど――」

(月都くん、旭くんをブロックしてるの!?)

 初耳だ。


「倉地さんみたいな子がいるなら安心だよ。これからも、月都のことをよろしくね」

 ハンカチを握って、旭くんはほほえんだ。

 それは、『太陽の王子様』のあだ名に相応しい――優しい笑顔だった。

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