21:こんなの、いやだ
6月27日。
日曜日の繁華街は、人でごった返していた。
駅前のスクランブル交差点は、信号が変わるたび人の波がぶつかり合う。
通りのはしに立って、その様子をぼうっと眺めていると――
「風花、あそこ」
隣にいた月都くんが、右手を指さした。
そこにいたのは、大きなリュックを背負って、スーツケースを引いたおばあさん。
地下に下りたいのにスーツケースが持ち上げられず、階段の前で困ってるみたい。
「なにぼさっとしてるんだ。ハクはいないんだから、ちゃんと自分の目で探せ。もう時間がないんだぞ」
月都くんはイライラしたような口調で言った。
タイムリミットまであと四日しかないんだから、ぼうっとしていたわたしが悪い。
(そんなひまがあれば、一人でも多く困ってる人を探すべき……なんだよね)
「……うん。ごめん。行ってくるね」
わたしが言い終わるよりも早く、月都くんはわたしに背を向けた。
「おれはあっちの外国人グループに声をかけてくる。道に迷ってるみたいだから」
「わかった。また後でね」
月都くんと別れて、わたしはおばあさんに近づいた。
「あの、いきなりすみません。地下に行きたいんですよね。良かったら、運びましょうか?」
「まあ、ありがとうねぇ。助かるよ」
「……っ、よいしょっ!」
――うわ、重っ! 岩でも入ってるの!?
スーツケースが重すぎて、手がプルプル震える。
それでもなんとか持ち上げ、わたしはおばあさんと一緒に地下に続く階段を下りた。
「つ、着きました……」
わたしはぐったりしながら、額に浮かんだ汗を手の甲で拭った。
「本当に助かったよ、ありがとう。良かったらこれ、食べてちょうだい」
おばあさんは背中のリュックから、チョコレートのお菓子を取り出した。
「いえ、いいですよ、そんな」
「いいからいいから。お礼くらいさせてちょうだい。そうだ、飴もあったんだわ」
「……ありがとうございます。いただきますね」
押し切られて、わたしはチョコレートと飴を受け取った。
お菓子をショルダーバッグに入れて階段を上がり、さっきの場所に戻る。
道案内が終わったらしく、月都くんもそこにいた。
次を探すみたいに、周りを見回している。
その横顔は、怖いくらいに真剣だ。
「お菓子もらったんだ、一緒に食べよ~」とか、のんきに言える空気じゃない。
(……なんか、やだなあ。わたしのためを思って必死になってくれてるのは、もちろん嬉しいよ。嬉しいんだけど……これはなんか、違う気がする)
人助けだって、次から次へと、月都くんに指示されて。
これじゃ、人助けっていうより、作業をしてるみたい。
わたしはカバンからスマホを取り出し、ハッピーポイントアプリを開いた。
【100ポイント獲得しました】
【50ポイント獲得しました】
【80ポイント獲得しました】……
今日は朝から頑張ってるから、ポイントの獲得履歴がたくさん。
でも――それでも、現在のトータルポイントは、50万にも届いてない。
(タイムリミットまでずっと、わたしは声もかけられないくらいにピリピリした月都くんと、人助けし続けるの?)
ハクは100万ポイントくれるほど困ってる人は、わたしの近くにいるって言った。
わたしはその言葉を信じて、周りの人を助けてきた。
それでも、その人を探し当てることはできなかったのに、あと四日で見つかるの?
(命がかかってるんだから、最後まであきらめちゃいけない。月都くんみたいに頑張って、その人を見つけるべきだってわかってる。でも……わたしは……)
大久保食堂に行った夜のことを思い出す。
月都くんと一緒に唐揚げ定食を食べて、「美味しいね」って笑い合った夜のことを。
(もし、あと四日しか生きられないなら。他人のためじゃなくて、自分のために生きたいよ。お母さんやお父さん。紗彩ちゃんや月都くん。家族や大切な友達と一緒に、楽しい思い出を作りたい)
わたしはぎゅっと両手を握ってから、勇気を出して口を開いた。
「月都く――」
「――月都?」
わたしの声に重なって、誰かが月都くんの名前を呼んだ。
ビクリと、月都くんの肩が大きく震えた。
左手を見ると、人ごみの中に、月都くんとそっくりな男の子がいた。
違うのは髪型と服装だけっていうくらい、本当に……鏡うつしみたいにそっくり!
「……旭」
月都くんは顔をこわばらせて、その男の子の名前を呼んだ。




