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ハッピーポイント集めます〜わたしの余命は49日!?〜  作者: 天咲リンネ


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02:楽しみかも

「え。なんで割っちゃったの?」

「……清水きよみず公園の近くを歩いていたら、足元にあって。気づかずに踏んだ」

 天宮くんは珍しく、気まずそうな顔をしている。


「ああ、わたしがさっき、気づかずにペットボトルを踏んじゃったみたいな感じかぁ。でも、ご神体って、神様が宿ってる大事なものでしょ? 足元に転がってることなんてあるの?」

「それがのう。我が主の祠は長いこと誰にも手入れされず、ボロボロでな。カラスのやつめが壊れた屋根の隙間からご神体をつっつき、地面に落としたんじゃ!」

 ハクは怒っているみたいで、二つの尻尾を激しく振った。

 狐っていうより犬みたいだなあ……なんて思ったのは、内緒。


「なるほど。カラスって、光るものが好きらしいもんね」

 納得して、わたしはうなずいた。


「とにかく、割れた鏡を直すまで、ハクはおれから離れない。そういう契約だ。ハクの力を使えば、お前を身体に戻せる」

 そうなんだよな? と聞くように、天宮くんはハクを見つめた。


「本当に!?」

「まあ、とりあえずの応急処置くらいはできるが……ただし、月都。おぬしがこれまで集めたハッピーポイントは全部なくなるぞ。それでも足りんから、月都の『生存力』も使わせてもらう。恐らくこれから酷い目に遭うことになるが、その覚悟はあるんじゃな?」

 ハクは左前足で、天宮くんの胸を指した。


「……具体的に、どんな目に遭うんだ?」

 少し考えるような間を置いてから、天宮くんは大真面目な顔で聞いた。


「生き物というものは、自分でも気づかぬうちに『運』を使って災いを避けておる。生存力を失えば、それができんようになる。つまり、ものすご~く運が悪くなるのじゃ。ただ歩いているだけで植木鉢が降ってきたり、下手をすると車が突っ込んでくるかもしれん」

「めちゃくちゃ危ないじゃん!?」

 わたしのツッコミを無視して、天宮くんはうなずいた。


「わかった。それで構わない」

「わかっちゃったの!? 本当にいいの!?」

「じゃあ、このまま知らんぷりして逃げていいのか? お前を助けられるのは、おれしかいないと思うけど」

 天宮くんは、わたしをじっと見つめた。


「う……」

 魂が抜け出たままだと、身体との『縁』が切れて、本当に死んじゃうんだよね……。

 そ、そんなの、やだ!!

 死にたくないよ!!


「……。すみません。ご迷惑をおかけしますが、お願いします。どうか、助けてください」

 わたしは空中で姿勢を正し、深く深く頭を下げた。


「いいけど。おれは集めたポイントを失うし、リスクも負うんだ。その分、お前にもこれから働いてもらうからな」

「働くって、何するの?」

「おれと一緒に、……ハッピーポイントを集めてもらう」

 天宮くんは、言いづらそうに顔をしかめて、そう言った。


「ハッピーポイントって、なに?」

「神の力の源となる『神力しんりょく』のことじゃ。いまの時代の子どもに合わせて、わかりやすく言い換えてやったんじゃ」

「いや、言い換えなくていいよ。なんだよハッピーポイントって。馬鹿みたいなネーミングだ。言ってて恥ずかしいんだよ」

「馬鹿とはなんじゃ!」

 ハクが怒り、そのまま二人は口げんかを始めた。


 地上では、救急車のサイレンが響き渡り、次々と人が集まっている。

 ああ、やばい!!

 これ以上、大騒ぎになる前に、早く身体に戻らないと!!


「わかった! わたしにできることなら、何でもする! ハッピーでもラッキーでも、何でも集める!! 頑張って働くから、お願い、ハク!! わたしを生き返らせて!!」

「よし! 契約成立じゃな!」

 ハクの額の鏡がピカっと光って、わたしの半透明の身体を照らした。


「キヨミズノミコト様、我に力を与えたまえ!! ゆくぞ――魂還たまがえし!!」


 ハクが、ぴょんっと空中で宙がえりをする。

 その直後、鏡が、凄まじい光を放った!!


「!!」

 視界が真っ白に染まる。

 超強力な掃除機に吸い込まれるみたいに、身体が下に引っ張られて――


「――はっ……!!」

 気づけば、わたしは仰向けに寝転んでいた。


 視界に広がるのは青空と、心配そうな顔でわたしを覗き込んでいる人たち。

 草や土の匂いがする。

 背中はぴったりと、地面にくっついている――ちゃんと、その感触がある。


 ――痛い。

 全身がズキズキするし、派手に擦りむいた左足は、ヒリヒリ焼けるよう。

 でも、この痛みこそ、わたしが生きている証拠だ。


「……い、生きてる……生き返ったぁぁ!!」

 わたしは泣きながら跳ね起きた。


「おお!! 意識を取り戻したぞ!!」

「良かったー!!」

 わたしを囲んでいた人たちが笑い、犬が元気に飛び跳ねている。


「目が覚めたか。いやあ、良かった良かった」

 わたしのそばにいたハクが嬉しそうに、二つの尻尾をパタパタ揺らした。


「あちこち傷だらけのようじゃが、命にかかわるほどの大怪我は負ってないようじゃし、これにて一件落着じゃな。『とりあえず』は」

「とりあえず?」

「ああ、気にするな。無事生き返ったんじゃから、いまは素直に喜んでおけ」

 ハクは左前足を振った。


「うん! ハク、助けてくれてありがとう! ところで、天宮くんは?」

「あっちじゃ」

 ハクが左前足を向けた方向には、歩き去っていく天宮くんの背中があった。


「ああ見えて、月都も心配していたんじゃよ。 おぬしが目を覚ますまで、ずっとそばで黙って見ていたんじゃから」

 狐だから表情がわかりにくいけど、ハクは笑ってるみたい。


 どうやら他の人にハクは見えてないらしく、「誰と話してるの?」「頭を打ったせいでおかしくなったんじゃ……」って、みんな心配そうな顔をしている。

 でも、わたしは構うことなく、ハクと会話を続けた。


「え、本当に?」

「うむ。月都から伝言じゃ。『面倒ごとには関わりたくないから、詳しい話は明日する』じゃと」

 そのとき、天宮くんが足を止めて振り向いた。


「あっ! 天宮くん! 今日は、本当に本当にありがとーー!! おかげで助かったよーー!!」

 わたしは立ち上がって叫び、右手を大きく振った。

 怪我をしている右ひじに激痛が走ったけど、そんなの無視だ、無視!


「…………」

 天宮くんは何も言わずに、前を向いて歩き出したけど。

「どういたしまして」というように、右手を上げてくれた。


「ふふっ」

 天宮くんとは、これまで一回も話したことがなかった。

 誰にでも塩対応だから、クールな人だなあって思ってたけど、そんなことなかった。

 だって、本当に冷たい『氷の王子様』だったら、困ってるわたしを助けたりしないし、目を覚ますまでそばにいたりしないよね?


 ハッピーポイント集めって、どんなことをするんだろう?

 これから大変なことになりそうだけど……なんだかちょっと、楽しみかも!

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