17:良かったね
「……やっぱり、天下の天宮グループの息子でも、どうしようもないよな。なんかごめんな、変な相談しちゃって」
しばらくして、大久保くんは申し訳なさそうに笑った。
「いやいや! そもそも、紗彩ちゃんに大久保くんを紹介してって言ったのはわたしだから!」
わたしは大急ぎで、首と手を同時に振った。
それから、チラッと天宮くんを見る。
天宮くんはあごに手を当ててうつむき、考え込んでいる。
悔しいけど、わたしじゃなんの解決方法も浮かばない。
頼りになるのは天宮くんだけだ。
「……そうだ」
なにか思いついたらしく、天宮くんが急に顔を上げた。
「小学生のころに連れて行かれたパーティーに、有名なインフルエンサーがいた。おばあ……祖母が気に入って、活動の支援をしていたはずだ」
天宮くんはポケットからスマホを取り出して、SNSを開いた。
「いた。こいつだ」
そう言って、天宮くんはスマホをテーブルに置いた。
「ええっ、すごい!! 『しおむすび』さんじゃん!! テレビや動画で見たことあるよ!!」
画面をのぞき込んだわたしは、すっとんきょうな声で叫んだ。
しおむすびさんはフォロワー二百万人超えの、超有名インフルエンサーだ。
「え、なに?」
「うるさ……」
「あっ。なんでもないんです、ごめんなさい」
近くの席でおしゃべりしていた生徒たちが一斉にこっちを見たから、わたしは慌てて立ち上がった。
ペコっと頭を下げ、すぐに着席する。
恥ずかしくて、顔から火が出そう。
「……しおむすびさんがお店の宣伝をしてくれたら、バズるんじゃない? そしたら、お客さんがたくさん来てくれるかもしれないよ」
わたしは自分の口元に両手をあて、ないしょ話をするように、小さな声で言った。
「いや、普通の声量で話せよ。叫ぶから怒られるんだよ」
「はい。気をつけます……」
返す言葉もなくて、わたしは身を縮めた。
「なあ、天宮。どうにか、お前のおばあちゃんに頼んでもらえないか? しおむすびさんに連絡して、大久保食堂の宣伝をしてほしいってさ」
大久保くんは、すがるような目で天宮くんを見つめた。
「頼んでみてもいいけど、祖母がうなずくかどうかはわからないぞ」
「ああ。わかってる」
「そうか。じゃあ、頼む前に条件がある。おれを大久保食堂に案内しろ。超有名インフルエンサーに店の宣伝を頼むんだ。もし、『まずい・汚い・やる気がない』のどれか一つでもあてはまったら、おれは帰る。この話自体、なかったことにするからな」
「わかった。今日帰ったら、みんなで店の大掃除するよ」
大久保くんは大真面目な顔でうなずいた。
「肝心の味のほうはどうなんだ?」
「それは大丈夫、自信ある! おれん家の唐揚げ定食は、世界を救えるくらい美味いから!!」
「それはすごいな。楽しみにしとく」
大げさな台詞が気に入ったらしく、天宮くんは笑った。
「…………」
大久保くんはポカンと口を開けて、天宮くんを見ている。
「なんだよ。どうしたんだ?」
「いや。天宮が笑うなんて、なんか意外で。天宮って、死んだ魚みたいな目してたじゃん。ぜんぜん笑わなくて、女子には『氷の王子』とか呼ばれてたし」
「でも、『氷の王子』より、いまのほうがよくない?」
今朝の女子たちの一件が頭を過ぎり、わたしは割って入った。
あの子たちはイメージ違うとか、好き勝手なこと言ってたけど。
みんながみんな、あんなひどいこと思ってるわけじゃないって信じたかった。
「うん。いまのほうが話しやすいし、だんぜんいいや」
大久保くんはニカッと笑った。
「だって、天宮くん。良かったね!」
嬉しくなって、わたしは弾んだ声で言った。
「……いや、『良かったね』とか言われても。反応に困るんだけど」
天宮くんは複雑な顔をしてから、わたしを見た。
「おれの話なんかどうでもいいんだよ。倉地も唐揚げ好きなんだろ? 一緒に行くか?」
「行きたい! 大久保くん、わたしも天宮くんと一緒に行っていい?」
「もちろん。そうだ、ライン交換しようぜ。準備ができたら連絡するから」
「うん!」
わたしはポケットからスマホを取り出し、大久保くんとラインを交換した。




