15:もしかして?
「だって、本当に同じ人間なの? って疑いたくなるくらい、なんでもできるんだもん。かけっこでも一番だったし、勉強でも一番。ほとんどのテストで100点だったんだよ。信じられる?」
「え……そんな人いるの?」
「いるんだよ、それが。しかもね、絶対音感も持ってて、ちょっと聞いただけの曲をそっくりそのまま弾けるの。作文でも絵でもバイオリンでも賞を取ってたんだよ!」
紗彩ちゃんは拳を握って、いつになく熱く語った。
「旭くんの家に遊びに行った男子に聞いたんだけどね。部屋の一つはトロフィー置き場になってて、トロフィーや楯や賞状がずらーっと並んでたんだって。ほとんどが旭くんのものだったらしいよ。たまに月都くんの名前もあったけど、月都くんは2位とか3位で、1位はなかったみたい」
「……そうなんだ。旭くんって、本当にすごいんだね」
2位や3位でも、じゅうぶんすごいと思う。
でも、すぐ隣に1位がいたら、やっぱりかすんじゃうよね。
そういえば、この前の中間テストでも、天宮くんは3位だったって言ってたな。
ハッピーポイント集めなんてせず、勉強に集中できたら1位になれたのかも……って思うと、申し訳ない気分になっちゃうよ。
「うん。でも……」
紗彩ちゃんは、ふと顔をくもらせて、天宮くんの席を見た。
「……旭くんが《《なんでもできてしまうから》》。月都くんは可哀想だなって思ってた」
「え、どうして? わたしだったら、そんなお兄ちゃんがいたら、自慢しちゃうけど」
「風花ちゃん。よく考えて」
紗彩ちゃんはまっすぐにわたしの目を見つめて、真剣な顔で言った。
「年が離れた兄弟ならまだしも、旭くんと月都くんは双子なんだよ? 顔もそっくりで、同じクラスにいるんだよ? 自分のすぐ近くに完璧なお兄ちゃんがいたら、周りから比べられるに決まってるでしょう? 月都くんにとっては、たまらなかったと思うよ」
「あ……」
ようやく気づいて、わたしはハッとした。
――もし、わたしに双子のお姉ちゃんがいて。
そのお姉ちゃんが優しくて、なんでもできて、みんなから「太陽のお姫様」って呼ばれるほど愛されていたとしたら。
みんなから「お姉ちゃんと比べて、風花ちゃんはダメねえ」って笑われたら……。
想像するだけで、息が苦しくて、心臓がギュッとなった。
「小学校に入学したばかりの頃は、おとなしい旭くんより、元気な月都くんのほうが目立ってた。友達とヒーローごっことかして、校庭を駆け回ってる姿をよく見たよ。でも、学年が上がるにつれて、だんだん元気がなくなって……笑わなくなっちゃったの」
紗彩ちゃんは、同情するように目を伏せた。
「…………」
わたしはなにも言えずに、ただ黙って紗彩ちゃんの言葉に耳をかたむけた。
「だから、最近の月都くん……あ、ごめん。つい昔のくせで、月都くんって呼んじゃってた」
ニセ彼女のわたしに気を遣ったらしく、紗彩ちゃんは咳払いした。
「最近の天宮くんを見て、わたし、ほっとしてたんだ。昔みたいに笑えるようになって、良かったなって。きっと、風花ちゃんが天宮くんを変えたんだろうね」
紗彩ちゃんはほほえんだ。
「そんな。わたしはなにもしてないよ。むしろ、迷惑かけてばっかりだよ」
わたしは両手を振った。
「またまた、照れちゃって。天宮くんと一緒に『お悩み相談』とかしてるくせに。天宮くん、そんなことするキャラじゃなかったじゃない。風花ちゃんの影響でしょ?」
「あー……それは、影響というか……必要に迫られてというか……」
校内でのボランティア活動を、わたしたちは『お悩み相談』ってことにしてるんだ。
『どんな小さな悩みごとでも構いません!
困ったことがあれば、わたしたちに相談してください!』
――そんな文章を書いた手作りポスターまで、校内掲示板に貼ってるんだよ。
おかげで、わたしたちの活動のことは生徒会の人まで知ってる。
「あ、そうだ」
ふと思いついたかのように、紗彩ちゃんは軽い口調で言った。
「お悩み相談っていえば。同じ文芸部の大久保くんが、すごく悩んでるみたい。なんでも、人生最大のピンチなんだって」
「人生最大のピンチ!?」
――それって、もしかして、100万ポイントくれる人なんじゃ!?
わたしは思わず紗彩ちゃんの机に両手をついて、身を乗り出した。
「紗彩ちゃん、お願い! 大久保くんにわたしを紹介して!!」




