14:王子様にして、完璧な人
1組の教室に入ると、紗彩ちゃんがいた。
自分の席に座って、ブックカバーのついた本を広げている。
教室にいるのは、紗彩ちゃんと数人だけ。
天宮くんはまだ登校してないみたい。好都合だ。
「紗彩ちゃん、おはようっ!」
わたしは自分の席にカバンを置いてから、紗彩ちゃんに駆け寄った。
「ちょっと、聞きたいことがあるんだけど!」
「おはよう……どうしたの、そんなに慌てて」
紗彩ちゃんは驚いたような顔をして、本を閉じた。
「あのね――」
黒い傘を差した女子が言ってたことは本当なの?
小学校では、王子様だったのは旭くんのほうなの?
天宮くんって、旭くんの『おまけ』扱いされてたの?
――そんなふうに、聞きたいことは山ほどあった。
でも、いざ聞こうと思ったら、言葉にならなかった。
だって、紗彩ちゃんに聞くのは、なんだか違う気がするから。
聞きたいことがあるなら、天宮くん本人に直接聞くべきじゃない?
それに……『おまけ』なんてひどい言葉、冗談でも言いたくない。
「……ごめん。やっぱり、なんでもない」
わたしは中途半端に開けていた口を閉じて、息を吐いた。
「予想はつくよ。天宮くんのことでしょ?」
「へっ? な、なんでバレたの?」
「風花ちゃんがわたしに聞きたいことっていったら、天宮くんのことしかないじゃない。この前の土曜日だって、遊ぼうって言ったのに、天宮くんとの約束があるって断られたし。あーあ。彼氏と遊ぶのが楽しいのはわかるけどさー。わたしとは全然遊んでくれなくなっちゃって、悲しいなー」
紗彩ちゃんは頬杖をついて、わざとらしくため息をついた。
「ご、ごめん。でも、いまは本当に忙しくて……」
ハッピーポイントを集めないと死んじゃうんだよ……とは言えない。
「また今度遊ぼう」
「また今度って、いつ?」
紗彩ちゃんは眼鏡越しに、じろりとわたしをにらんだ。
この前も、その前の週末も遊びの約束を断ったから、かなり根に持ってるみたいだ。
「うっ。6月は予定がつまってるから、7月……に……」
言っていて、ズキリと胸が痛くなった。
――7月になっても、わたしは生きていられるのかな?
100万ポイントを集められなくて、死んじゃうんじゃないのかな?
弱気になっちゃダメだって何度言い聞かせても、不安で不安でしょうがない。
「……7月になったら、遊ぼうよ。最優先で予定を開けるから」
わたしは無理やり笑顔を浮かべた。
「本当? 約束だよ!」
たちまち、紗彩ちゃんは頬杖をつくのをやめて笑顔になった。
「話を戻すけどさ。天宮くんのことで、なにか聞きたいことがあったんでしょ? 一緒に遊ぶって約束してくれたことだし、いまなら特別になんでも答えてあげるけど。本当に聞かなくていいの?」
「……じゃあ、一つだけ。紗彩ちゃんの目から見て、旭くんって、どんな人だった?」
「うーん、そうだなあ。みんなは『太陽の王子様』とか言ってたけど。わたしの印象だと、天が二物も三物も与えちゃった『完璧な人』かな」
「完璧な人? どういうこと?」
わたしはキョトンとしてしまった。




