12:ニセ彼女と一万ポイント
教室、トイレ、廊下。
どこも注意深く探したけど、指輪は見つからなかった。
(天宮くんたちが見つけていますように)
祈りながら渡り廊下に戻ると、早乙女さんが立っていた。
天宮くんは、まだ戻って来てないみたいだ。
「早乙女さん! ごめん、見つからなかった!」
わたしは息を切らして、早乙女さんに駆け寄った。
「……それはそうでしょう。だって」
気まずそうな顔で、早乙女さんは自分の左手を上げた。
左手の中指には、しっかりと銀の指輪がはまっている。
「あっ!! 見つかったんだ!?」
「ええ。天宮くんの予想通りだったわ。ロッカーと壁のせまい隙間にあったの。奥のほうまで入り込んでたから、気づかなかった……はあ。あれだけ大騒ぎして、オチがこれって。全く、情けないったらないわ」
早乙女さんはため息をついて、右手で指輪を包み込むように握った。
「でも、見つかって良かったわ。これは大事なお守りで……おばあちゃんの形見だから」
「えっ、形見だったの? それはなくしたら焦るね。本当に、見つかって良かった」
心から笑うと、早乙女さんは口をへの字に曲げた。
「……あなた、怒ってないの? 指輪は更衣室にあったわけだから、探す必要なんてなかった。これこそ、『骨折り損のくたびれ儲け』じゃない」
「怖いこと言わないでよ。骨なんて折ってないよ」
「骨折り損のくたびれ儲けっていうのは、苦労がムダになったっていう意味だ」
後ろから聞き慣れた声が聞こえて、わたしは振り返った。
「あっ、天宮くん。お帰り! 指輪は――」
「見ればわかる。見つかって良かったな」
早乙女さんの左手に輝く指輪を見て、天宮くんはほほえんだ。
「……そうね。良かったわ」
早乙女さんは天宮くんの笑顔を見て、嬉しそうな、悲しそうな……なんとも複雑な顔をした。
「どうしたんだ? 指輪に傷でもついてたのか?」
天宮くんは不思議そう。
「ご心配なく。特に大きな傷はなかったから。その……天宮くん。倉地さん。一緒に指輪を探してくれて、ありがとう」
早乙女さんは、ぺこっと頭を下げた。
「どういたしまして」
「もう落とさないように気をつけろよ」
「ええ、気をつける。――それはそれとして、天宮くん。あなたのファンクラブの会長として、聞きたいことがあるのだけれど」
早乙女さんは真顔で天宮くんに詰め寄った。
「ごまかさず、正直に答えてちょうだい。あなたたち、付き合ってるんでしょう?」
「へっ!?」
すっとんきょうな声を上げたわたしを、早乙女さんは厳しい目で見つめた。
「だって、昼休みも放課後も一緒にいるじゃない。あやしいわ。絶対、『ただのクラスメイト』なんかじゃないでしょう。うわさによれば、日曜日も駅前でデートしてたって聞いたわよ?」
「ちが――」
――違うの! ハッピーポイントを集めるために、一緒に人助けをしてただけ!!
って、叫びたかったのに。
「もがっ」
横から天宮くんの手が伸びてきて、わたしの口を素早く塞いでしまった。
「早乙女の言う通りだ。実はおれたち、付き合ってるんだ」
「●×▽■※っ!?」
驚きすぎて、意味不明な奇声が口から飛び出した。
――つ、付き合ってるって……。
大ウソじゃん!!
いったい、なにを言い出すの、天宮くん!!
「いいから、そういうことにしておけ」
天宮くんはわたしの耳元で囁いた。
色々言いたいことはあるけど……天宮くんのことだから、きっとなにか考えがあるんだろう。
わたしが黙ってうなずくと、天宮くんは安心したように手を離した。
「……そう。やっぱり、そうだったのね。正直に答えてくれてありがとう」
早乙女さんはいっしゅんだけ、悲しそうに目を伏せた。
でも、すぐに気持ちを切り替えたらしく、顔を上げて言った。
「決めたわ。ファンクラブは解散する。彼女がいる人を追いかけても、むなしいだけだもの。すぐには無理かもしれないけど……諦めて、新しい恋を探さないとね」
早乙女さんは、少しだけ無理をしたような笑顔を浮かべた。
「倉地さん、これまで意地悪なこと言ってごめんなさいね。悔しいけど、あなたには負けたわ。天宮くんとお幸せに」
「……う、うん。ありがとう……?」
お幸せにって言われても、返事に困ってしまう。
本当は、わたしたち、付き合ってないんだけどなぁ。
「じゃあね。また明日」
早乙女さんは足元に置いていたカバンを持って、颯爽と歩いて行った。
ちょうどそのとき、下校時間を告げるアナウンスと、音楽が流れ始めた。
「おれたちも帰るか」
「うん」
わたしと天宮くんは並んで歩き出した。
「ねえ、天宮くん。なんで早乙女さんに『付き合ってる』なんてウソ言ったの?」
「そのほうが都合がいいだろうが。倉地と一緒にいると、いちいち理由を聞かれて面倒くさいんだよ」
天宮くんはウンザリしたような顔をしている。
「ああ、わかる。わたしも一緒」
これまで色んな人に「なんで天宮くんと一緒にいるの?」「付き合ってるの?」って聞かれて、わたしも正直、ウンザリしてた。
ただのクラスメイトだって言っても「ウソだ」って決めつけて、なかなか納得してくれない子もいたし。
「じゃあ、6月30日までは付き合ってるってことにしようか。その後は別れたってことにすればいいもんね」
「……そうだな」
ん?
なんかいま、変な間があったような――と、思った直後。
――パパパパーンッ♪
わたしのスカートと天宮くんのズボンから、同時にファンファーレが鳴った。
わたしと天宮くんはスマホを取り出して、固まった。
【10,000ポイント獲得しました】
「ウソだろ……」
「なんで!? 指輪を探しただけなのに!? ハク、間違えてない!?」
「なにも間違えてはおらんぞ」
ぽんっという音がして、天宮くんの近くにいた光の玉が、白い狐になった。
「言ったじゃろう、相手が幸せになればなるほどハッピーポイントは増えると。今回多くのハッピーポイントが獲得できたのは、早乙女にとって、それだけ指輪が大事なものだったということじゃ」
「……そっか。おばあちゃんの形見だもんね。唯一無二の宝物だもんね……」
わたしはスマホを握りしめて、天宮くんを見た。
わたしが言いたいことは伝わったらしく、天宮くんは笑った。
「一回の人助けで一万ポイント稼げるなら、百万ポイントも夢じゃない。希望が見えてきたな」
「うんっ!!」
嬉しくて、わたしはウサギみたいにぴょんぴょん飛び跳ねた。




