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月蝕の花嫁  作者: 紫苑ユリ
白夜の花嫁
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精霊王からの祝福

夜の私室。


湯浴みを終えた私は、

窓辺へ腰掛けながら夜風に当たっていた。


白夜王国の夜景は今日も綺麗だ。


王都ではまだ結婚式のお祝いムードが続いているらしく、

遠くから音楽まで聞こえてくる。


「……なんだか夢みたい」


ぽつりと呟いた時だった。


「夢じゃないわよ〜?」


突然後ろから声がして、

私はびくっと肩を跳ねさせた。


「きゃっ……!」


振り返る。


すると。


「こんばんは、花嫁様♡」


「お祝いに来たわよ〜!」


「めでてぇなぁ!!」


部屋の中に、

いつの間にか精霊王達が勢揃いしていた。


「み、皆?!」


ネレイアが楽しそうに私へ抱きついてくる。


「もう王都中お祭り騒ぎじゃない!

私達まで嬉しくなっちゃった!」


「ミスティリアの花嫁姿、

早く見たいわぁ〜♡」


セラフィナまで珍しく上機嫌だ。


イグニスなんか、

既にワインを片手に豪快に笑っている。


「ガハハ!!

めでてぇ!!

今日は宴だ宴!!」


「なんで勝手に酒盛りを始めてるのよ……」


ヴェルディアはソファへ寝転がりながらにやにやしていた。


「いやぁ?

まさかミスティリアがこんな甘々空間になるとはなぁ?」


「ヴェルディア!」


「あの白い王子

最近顔緩みすぎじゃね?」


「……否定できない」


レオニス様が真顔で言った。


「否定してくださいよ!?」


思わず叫ぶと、

部屋中に笑い声が広がる。


……恥ずかしい。


その時。


「ですが、

確かに喜ばしいことです」


ルシエルが静かに口を開いた。


「月蝕の王と白夜王国第一王子の婚姻。

歴史的にも極めて特異な契約でしょう」


「契約じゃなくて結婚ですよ……」


「似たようなものでしょう」


「全然違います!」


「いやぁ?

精霊契約より重そうだけどなぁ?」


ヴェルディアが笑う。


「重くないです!」


「ミスティリア」


不意に、

低い声が響いた。


影が揺らぐ。


ノクティスだった。


いつの間にか、

窓辺近くへ立っている。


相変わらず不機嫌そうだ。


「……お前達、

騒ぎすぎだ」


「えぇ〜?

ノクティスだけ空気暗くない?」


ネレイアが呆れたように言う。


「だってこの子結婚するのよ?

もっと祝福しなさいよ〜!」


ノクティスは紫の瞳を細めた。


「……祝福してないわけじゃない」


「顔が怖いのよ」


「元々だろう」


「開き直ったわこの男」


私は思わず苦笑する。


するとその時。


「あ」


セラフィナが突然何かに気付いたように目を瞬かせた。


「……どうしました?」


「私達、

まだ祝福を渡してないじゃない」


静寂。


皆が一斉に固まる。


「……祝福?」


ネレイアが「あっ」という顔をした。


イグニスも目を見開く。


「マジだ」


「普通契約時にやるやつだろ?」


ヴェルディアまで驚いている。


私はきょとんとした。


「えっと……?」


ルシエルが静かに説明する。


「精霊契約には通常、

契約主へ各属性の“祝福”を与える儀式があります」


「加護の完成みたいなものね〜」


ネレイアが補足する。


「でもティリアの場合、

契約時が色々特殊すぎて飛んでたのよ」


「えっ」


「そんな大事なもの、飛ばされてたの!?」


するとセラフィナが、

ぱっと笑顔になる。


「せっかくだし、

結婚式で全部まとめてやりましょう!」


部屋が静まり返った。


……嫌な予感がする。


「派手にやるかぁ!!」


イグニスが机を叩く。


「白夜王国中に祝福降らせようぜ!」


「雷演出もいるだろ!」


ヴェルディアが乗っかる。


「水鏡と光花も綺麗よね〜!」


「氷晶の天蓋も悪くありません」


「月光降臨演出も必要だわ♡」


どんどん話が大きくなる。


「待ってください」


誰も聞いてない。


「空へ巨大魔法陣展開してぇな」


「結婚式場ごと海に沈める?」


「ネレイアそれは駄目です」


「いや絶対楽しいわよ?」


「楽しくありません!!」


私は慌てて止めるが、

完全に手遅れだった。


精霊王達が本気で演出会議を始めている。


しかも妙に息が合っている。


「光と氷を重ねれば、

夜空みたいな演出になりますね」


「そこへ炎を散らすだろ?」


「雷も走らせようぜ」


「花吹雪もいるわ♡」


「待ってください、

結婚式ですよね……?」


不安になってレオニス様を見る。


すると。


「……まあ、

楽しそうでいいんじゃないか?」


完全に面白がっていた。


「レオニス様まで!?」


その時。


ずっと黙っていたノクティスが、

ぼそりと呟いた。


「……俺はやらん」


皆が振り返る。


「えぇー!?

なんでよ!」


ネレイアが抗議する。


ノクティスは不機嫌そうに顔を逸らした。


「祝福する気分じゃない」


「嫉妬してるのねぇ」


セラフィナがさらっと言った。


空気が止まる。


「セラフィナ!!」


「だって事実でしょう?」


ノクティスの眉間に皺が寄る。


「……否定はしない」


「しないんだ!?」


イグニスが爆笑した。


ヴェルディアなんかソファから落ちかけている。


私はもう顔が熱かった。


「ノクティス……」


名前を呼ぶと、

ノクティスは少しだけ視線を寄越す。


紫の瞳が、

ほんの少しだけ柔らかくなった。


ノクティスは少しだけ目を伏せた。


「……だが」


低い声。


「お前が幸せなら、

それでいい」


その言葉に、

胸が少しだけ締め付けられる。


ノクティスは不器用だ。


でも。


ちゃんと、

祝福しようとしてくれているのは分かった。


するとイグニスが、

にやっと笑った。


「よし決まり!

結婚式当日は派手に祝福ぶちかますぞ!!」


「王都中ひっくり返るわねぇ!」


「絶対泣く人出ますわ♡」


「主に保守派貴族ですね」


「やめてください不安になります!!」


部屋中に笑い声が響く。


窓の外では、

白夜王国の月が静かに輝いていた。


結婚式まで、

あと少し。


きっと、

忘れられない日になる。

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