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月蝕の花嫁  作者: 紫苑ユリ
月の女神
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もう独りじゃない

ルシエラ襲来から、

三日が経っていた。


白夜王国は静けさを取り戻していたが、

城の空気はどこか重い。


ティリアは、

まだ目を覚まさない。


ノクタルギアを鎮めた時と同じだ。


あれほどの魔力を使えば当然だと、

医師達は言う。


だが。


分かっていても、

怖いものは怖かった。


「……また無理をした」


俺は眠るティリアの手を握りながら、

小さく息を吐く。


静かな寝息。


青白い顔。


長い銀髪。


ただ眠っているだけだ。


それなのに、

今にも消えてしまいそうに見える。


扉の外が騒がしくなったのは、

そんな時だった。



ルシエラの処遇について、

会議が開かれていた。


大広間。


重苦しい空気。


アルセリオン国王が静かに口を開く。


「……暗殺未遂、

王城襲撃、

王族殺害未遂」


低い声。


「本来であれば極刑でも足りん」


騎士達の空気が張り詰める。


だが父上は、

ゆっくり目を閉じた。


「……だが、

ミスティリア王女は既に彼女へ罰を与えた」


静寂。


「しかし我が国の王子が生死を彷徨ったのだ。

あとは幻影帝国側の判断へ委ねよう」


誰も異論を唱えなかった。


あの場にいた者全員が、

見てしまったからだ。


ルシエラがどれほど壊れていたか。


そして。


ティリアが、

それでも彼女を救おうとしたことを。



数日後。


幻影帝国から使者団が到着した。


ルシエラ引き渡しのためだ。


だが。


その中に、

見覚えのある二人の姿があった。


「……アレス王子、

レイン王子」


俺がそう呟くと、

二人は険しい顔のまま頷いた。


聞けば。


白夜王国から届いた報せを見た瞬間、

王城の制止を振り切って飛び出してきたらしい。


ティリアに会うために。



案内された部屋で。


二人は、

眠るティリアを見た瞬間、

言葉を失った。


アレス王子の拳が震える。


レイン王子は、

静かに目を伏せた。


「……気付けなかった」


掠れた声だった。


「やっと、

幸せになれたのに」


アレス王子が、

ティリアの髪へそっと触れる。


「また傷付けてしまった」


その表情は、

苦しそうだった。


後悔。


罪悪感。


愛情。


全部混ざっている。


レイン王子も静かに口を開く。


「……すまない、

ティリア」


「兄として、

守れなかった」


その姿を見ながら、

俺は静かに思う。


この二人もまた、

ティリアを愛しているのだと。


不器用で。


遅すぎて。


取り返しがつかなくて。


それでも。


確かに。



そして――

二人が白夜王国へ到着した翌朝。


ティリアの指先が、

小さく動いた。


「……ティリア?」


薄金の瞳が、

ゆっくり開く。


ぼんやりと天井を見つめたあと、

視線がこちらへ向いた。


そして。


ベッド脇にいたアレス王子とレイン王子を見て、

目を見開く。


「……お兄様?」


次の瞬間。


アレス王子が、

堪え切れないようにティリアを抱き締めた。


「っ……!」


「良かった……

本当に……!」


レイン王子も、

静かにその肩を抱く。


ティリアは一瞬驚いたあと、

震えるように二人へ抱き付いた。


「……っ、

お兄様……!」


泣きそうな声だった。


アレス王子が何度も謝る。


「ごめんな……

ごめんな、ティリア……」


「気付いてやれなくて……」


「幸せになったお前を、

また傷付けた……!」


ティリアは首を振った。


「違います……!」


涙を零しながら、

必死に。


「お兄様達は、

何も悪くありません……!」


その光景を見て。


胸の奥が、

静かに熱くなった。


ティリアは、

ずっと独りだった。


愛されることを知らなかった。


でも今は違う。


白夜王国にも。


幻影帝国にも。


ちゃんと、

彼女を大切に思う人がいる。


ティリアは泣きながら、

兄達へ笑いかけた。


その笑顔を見た瞬間。


ようやく。


全部終わったのだと、

そう思えた。


窓の外では、

白夜王国へ柔らかな陽光が差し込んでいる。


長い悪夢は終わった。


そしてきっと。


ここから先は、

幸せな未来へ続いていく。


ティリアの笑顔を見ながら、

俺は静かに誓う。


――今度こそ、

この幸せを守り抜くと。

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