守った光
ノクタルギアを鎮めたあの日から、
レオニス様は少しおかしくなった。
……いや、
正確には。
元々過保護気味だったのが、
完全に悪化した。
「ティリア、歩けるか?」
「歩けます」
「本当に?」
「本当にです」
幻獣を鎮めた直後、
私は膨大な魔力消費の反動で数日寝込んだ。
それ以来、
レオニス様は私をまるで壊れ物みたいに扱う。
扉を開ける。
椅子を引く。
階段では手を差し出す。
少し咳をしただけで、
医師が飛んでくる。
最初は申し訳なかった。
でも最近は。
……ちょっとだけ、
面白い。
「レオニス様」
「なんだ?」
「お茶を取りたいので、
少し離して頂けますか」
「駄目だ」
即答だった。
ソファに座るレオニス様はそっと私を腕の中に閉じ込める。
逃げられない。
「俺が取る」
「自分で出来ます」
「駄目だ」
最近ずっとこれ。
おかしい。
絶対におかしい。
「……そんなに心配しなくても、
もう元気です」
するとレオニス様は、
少しだけ眉を寄せた。
「元気な人間は、
三日間1度も起きずに眠ったりしない。」
「それは……」
言い返せない。
ノクタルギアを鎮めた後、
私は魔力の使いすぎで倒れたらしい。
記憶も曖昧で、
気付いたら自室のベッドだった。
あとから聞いた話では、
レオニス様はその三日間、
ほとんど部屋から出なかったらしい。
「……大袈裟です」
「大袈裟じゃない」
低い声だった。
抱き締める腕に、
少し力が入る。
「君が倒れた時、
心臓が止まるかと思った」
私は思わず目を瞬かせた。
レオニス様は、
滅多に弱音を吐かない。
王族として、
ずっと強くあろうとしている人だ。
なのに今は、
隠そうともしていなかった。
「街を守ったのは分かってる。
皆、君を讃えてる」
静かな声。
「……でも、
俺は怖かった」
その言葉に、
胸が締め付けられる。
レオニス様は私の額へ軽く触れた。
確かめるみたいに。
「君は平気な顔をして、
自分を削るから」
「そんなこと……」
「ある」
即座に否定される。
「君は、
自分が傷付くことに慣れすぎてる」
……痛いところを突かれた。
私は昔からそうだった。
誰かのためなら、
多少無理しても構わないと思ってしまう。
自分より、
他人を優先してしまう。
きっと。
誰にも必要とされなくなるのが、
怖かったから。
黙り込んだ私を見て、
レオニス様は小さく息を吐いた。
「……すまない」
「え?」
「束縛したいわけじゃない」
その薄青の瞳が、
少しだけ苦しそうに揺れる。
「ただ、
もう二度と……
あんな風に倒れる君を見たくない」
胸の奥が、
じんわり熱くなった。
この人はきっと、
私が思っているよりずっと。
私のことを大切にしてくれている。
私はそっと、
レオニス様の服を掴んだ。
「……レオニス様」
「ん?」
「少しだけなら、
過保護でもいいです」
すると一瞬、
目を見開かれる。
そのあと。
珍しく、
本当に嬉しそうに笑った。
「少しだけ、
だな?」
「……たぶん」
「今“たぶん”と言ったな?」
「言ってません」
「言った」
そんなやり取りをしながら、
私はそっと彼の肩へ寄り掛かった。
抱き締める腕が、
今度は優しくなる。
窓の外では、
王都の夜景が静かに輝いていた。
あの日守った光が、
今もちゃんと、
そこにあった。




