表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月蝕の花嫁  作者: 紫苑ユリ
月の女神
76/94

白夜に訪れた夜

妃教育が始まって、

しばらく経った頃のこと。


その日、

レオニス様はまだ部屋へ戻っていなかった。


私は妃教育用の本を読みながら、

静かな時間を過ごしていた。


すると。


耳飾りが淡く光り、

セラフィナが顕現する。


「やっと出られたわ〜!」


そう言って現れた彼女は、

部屋を見回して目を輝かせた。


「ここが新しい部屋ね!

いっつも坊やがいるから、

中々出られなくてもどかしかったのよ〜」


その声を皮切りに、

次々と精霊王達が姿を現す。


「おっ、

さすが一国の王子の部屋だな!」


ヴェルディアは興味津々に辺りを見回した。


「結構いい物置いてるじゃねぇか」


「ヴェルディア、

あまり色々触るのは駄目よ」


そう注意した時だった。


「……っ!」


部屋へ戻ってきたレオニス様が、

驚いたように目を見開く。


「精霊王達が、

何故ここに……!?」


「ご、ごめんなさい。

勝手に皆出てきてしまって……」


すると、

セラフィナが楽しそうに笑った。


「あら〜。

この坊や、

近くで見ると結構いい顔してるじゃない」


そして。


にやりと笑って、

ノクティスを見る。


「ねぇ、

ノクティス?」


「セラフィナ、

レオニス様をからかわないで頂戴」


そう言うと、

ノクティスは冷たく視線を向けた。


「……俺は嫌いだ」


「ははっ!

闇のお前に、

光の王子は相性最悪だもんな!」


イグニスが豪快に笑う。


そんな中、

ルシエルが静かに呟いた。


「……ところで」


「白夜王国に夜が訪れるとは珍しいですね」


「僕の記憶では、

この国は夜中でも昼のように明るかったはずですが」


すると、

セラフィナが懐かしそうに笑う。


「ちょっと、

いつの時代の話してるのよ」


「前はそうだったわ。

でも――」


彼女は、

私を見て続けた。


「隣国に“月の王”であるミスティリアが生まれてから、

この国にも夜が訪れるようになったのよ」


「……え?」


初めて知る事実に、

私は目を瞬かせる。


レオニス様もまた、

驚いたように呟いた。


「……確かに、

十五年前のある日を境に、

白夜王国には夜が訪れるようになった」


「最初は皆、

不吉の予兆として恐れていたが……」


「次第に、

“月の加護”だと喜ばれるようになったんだ」


「まさか、

ミスティリアの誕生が理由だったなんてな」


「まぁ、

太陽が真上にあったら寝れねぇもんな!」


ヴェルディアが笑う。


レオニス様も、

小さく笑みを零した。


「あぁ。

だから皆、

夜に感謝しているんだ」


そんな話をしているうちに、

ネレイアがふと時計へ目を向けた。


「あら、

いつの間にこんな時間」


「そろそろ戻りましょう」


ルシエルの言葉を合図に、

精霊王達はそれぞれの媒介器へ戻っていく。


最後に残ったノクティスは、

私をじっと見つめた。


「……夢でまた会おう」


熱を帯びた瞳。


そう言い残して、

彼は私の影へ溶けるように消えていった。


静寂が戻る。


すると。


「……夢で、

いつも会っているのか?」


レオニス様が、

少し悲しそうに尋ねた。


「精霊王達とは、

夢の中で会うこともありますよ」


……ノクティスの黒月宮へ行っているとは、

言えなかった。


「……そうか」


少し沈黙した後。


レオニス様は、

どこか照れたように言った。


「なぁ」


「君のことを、

愛称で呼んでもいいかな?」


「もちろんです」


「……たくさん呼んでください」


そう言うと、

レオニス様は少し嬉しそうに笑った。


「……ティリア」


「ティリア」


「なんだか、

気恥ずかしいな」


そして。


「……ミスティリアも、

俺を“レオ”と呼んでくれないか?」


突然のお願いに、

思わず目を見開く。


「……まだ、

だめです」


恥ずかしくて、

顔を見られない。


俯いたまま答えると、

レオニス様は優しく笑った。


「ははっ。

ティリアは照れ屋で可愛いな」


「じゃあ、

恥ずかしくなくなるまで待つとしよう」


そう言って。


「ティリア、

愛してるよ」


包み込むように、

抱き締められる。


私もそっと、

その背へ腕を回した。


「……私も、

愛しています」


「……とても」


消え入りそうな声。


けれど。


それを聞いた瞬間、

レオニス様の抱き締める力が、

ほんの少しだけ強くなった。


幸せな一日の終わりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ