眠れない夜
夕食を終え、
私は私室へ戻ろうとしていた。
……とは言っても。
今日からは、
レオニス様と同じ部屋なのだけれど。
どんな顔をして入ればいいのかしら。
ノックをした方がいい?
それとも普通に入るべき?
そんなことを考えて、
扉の前で立ち止まっていると。
「ぷっ……
何をしているんだい、ミスティリア」
「っ!
レオニス様!」
振り返ると、
レオニス様が肩を揺らして笑っていた。
「ごめんごめん」
「父上の執務室へ行っていたんだ」
「迎えに行けば良かったね」
そう言いながら、
まだ少し笑っている。
……意地悪だわ。
「俺も、
君の荷物が運び込まれてから入るのは初めてなんだ」
「さぁ、
入ろうか」
「おいで」
そう言って、
レオニス様が扉を開けてくださる。
その後ろについて、
私は部屋へ入った。
「うん、
基本は前のままだな」
「衣装部屋の半分は、
ミスティリアのものを入れてある」
「好きに使うといい」
そう言いながら、
レオニス様は部屋を見回した。
そして。
恐らく、
同じことを考えたのだろう。
「……今日から、
同じベッドで眠るんだな」
「……えぇ」
「……眠れるかな」
ぽつりと呟かれた言葉が可笑しくて、
思わず笑みが零れてしまう。
「もし眠れなかったら、
一緒に夜更かししましょうか」
「ははっ、
それは良い案だ」
「そうだ、
先に湯浴みをしておいで」
「ルシアンが支度をしているはずだ」
「俺は少し執務を片付けてくるよ」
「遅くまでお忙しいんですね……」
「では、
お言葉に甘えて先に入ってしまいます」
そうして私は、
湯浴みの間へ向かった。
一一
浴槽には、
白薔薇の花弁が浮かべられていた。
けれど。
用意されていた夜着を見て、
私は固まってしまう。
白と青を基調とした、
柔らかな薄布。
……薄すぎるわ。
というより、
透けてしまいそうなのだけれど。
「……ルシアンったら」
思わず小さく呟いてしまう。
とはいえ、
他に着るものも無い。
私は観念して、
その夜着へ袖を通した。
一一
湯浴みを終え、
部屋を出る。
「レオニス様は執務室ね……」
「湯浴みを終えたことだけでも、
伝えた方がいいわよね」
こんこん。
「ミスティリアか?
入っていいぞ」
扉越しに、
レオニス様の声が聞こえる。
……でも、
この格好を見られるのは恥ずかしい。
私は扉を開けず、
そのまま声をかけた。
「湯浴みを終えました」
「少し眠たくなってしまったので、
先にベッドへ入っていてもいいですか?」
「あぁ、
もちろんだ」
「俺も湯浴みを終えたら、
すぐ戻るよ」
そう言って、
こちらへ近付いてくる足音が聞こえた。
私は慌てて部屋へ戻り、
ベッドへ潜り込むのだった。
一一
しばらくして。
湯浴みを終えたレオニス様が、
静かに声をかける。
「ミスティリア、
起きているか?」
「起きています」
「ははっ、
なぜ顔を隠しているんだい」
「よく見せてごらん」
そう言われた次の瞬間。
被っていた布団を、
そっと取られてしまった。
「……っ!」
レオニス様が、
目を見開く。
「……っ!
違うんです……!」
「これは、
用意されていたのがこれしかなくて……!」
恥ずかしさで、
顔が熱くなる。
するとレオニス様は、
額へ手を当てながら苦笑した。
「……とても可愛い」
「だが、
こんな姿を見せられたら、
我慢できなくなる……」
「ルシアンには、
こういうものは婚姻の儀の後にしてくれと伝えておこう」
婚姻の儀の後。
つまり――結婚したら。
そこまで考えてしまい、
また顔が熱くなる。
「ミスティリア、
今日はもう遅い」
「そろそろ眠ろうか」
私はおずおずと、
レオニス様が入れるよう場所を空けた。
「ミスティリア、
おいで」
そう言われ、
隣へ横になる。
「……おやすみなさい」
「おやすみ」
互いの高鳴る鼓動を落ち着かせるように、
静かに言葉を交わした。
……けれど。
全く眠れなかった。
どれくらい時間が経っただろう。
レオニス様は、
もう眠ったのかしら。
そう思って、
そっと顔を覗き込む。
すると。
「ミスティリアも眠れないのかい?」
薄青の瞳が、
優しく笑っていた。
「……ドキドキしてしまって」
「婚約もしたのだから、
慣れないといけないのは分かっているんですけど……」
「……君は、
可愛すぎて困る」
「我慢できなくなってしまう」
……我慢しなくてもいいのに。
そう思ったけれど、
口に出す勇気はなくて。
代わりに。
私はそっと、
レオニス様の指先へ触れた。
「っ……」
「あまり、
煽らないでくれ……」
「……レオニス様になら」
その言葉を聞いた瞬間。
レオニス様は、
静かに私を抱き寄せた。
薄青の瞳が、
すぐ近くで私を映す。
そして。
そっと唇が重なる。
何度も。
確かめ合うように、
短い口付けを繰り返すのだった。




