君の影に嫉妬する
レオニス様が目を覚ました翌日には、
まるであの嵐が嘘だったかのように、
白夜王国には穏やかな日常が戻っていた。
皆で朝食を取っていた時。
フローリア王妃が、
静かに口を開く。
「婚約のお披露目も済みましたし、
そろそろ王妃教育を始めましょうか」
「っはい!
よろしくお願いします」
思わず背筋を伸ばして返事をすると、
レオニス様が苦笑した。
「前向きなのは良いことだが、
無理はしてはいけないよ」
「ふふっ、
分かっていますよ」
そんなやり取りを見ながら、
アルセリオン国王がふと思い出したように言う。
「そうだ」
「婚約も済んだのだから、
ミスティリア王女はレオニスと同じ部屋を使うといい」
「……っ!」
思わず、
レオニス様と顔を見合わせてしまう。
「お、同じ部屋ですか?」
珍しく動揺した声を出したレオニス様に、
アルセリオン国王は怪訝そうな顔をした。
「なんだ、
何か問題でもあるのか?」
「……いえ、
そういうわけでは……」
「では、
今後はそのようにします」
「うむ」
「最短で荷物を移動させよう。
明日からは同じ部屋で過ごすといい」
そうして。
私の王妃教育と、
レオニス様との相部屋生活が決まったのだった。
一一
婚約パーティの準備で忙しかったため、
今日は久しぶりに庭園を散歩していた。
「ここの白薔薇は、
いつ見ても綺麗だわ……」
「ははっ」
突然後ろから声がして、
驚いて振り返る。
そこには、
レオニス様が立っていた。
「君はいつも、
花の咲く場所にいるな」
「レオニス様!
どうしてこちらに?」
「一応まだ病み上がりだからな」
「今日の訓練は休みなんだ」
「ミスティリアに会えるかと思って来たら、
本当にいて驚いたよ」
そう言って笑う姿に、
胸が温かくなる。
「せっかく久しぶりに庭園へ来たんだ」
「茶でも飲まないか?」
「ぜひ!」
嬉しくて、
自然と声が弾んだ。
「……明日から、
同じ部屋だな」
「……えぇ、
そうですね」
「……嫌ではないか?」
少しだけ不安そうな声。
「っ嫌なわけ……」
「むしろ、
嬉しいです」
そう答えた瞬間。
レオニス様は目を丸くしたあと、
困ったように笑った。
「ははっ……
本当に君といると調子が狂うな」
……もしかして、
今すごく恥ずかしいことを言ってしまったのでは。
そう思って顔が熱くなっていた時だった。
かさっ。
草むらの方から、
小さな物音がする。
覗き込むと、
そこには白いうさぎがいた。
「まあ、
可愛いわ」
そっと手を伸ばすと、
うさぎは警戒することなく近付いてくる。
人懐っこい子なのね。
そう思った時。
「その額の紋様……」
レオニス様が、
目を細めた。
「前に、
ミスティリアがここで眠っていた時にも現れた子ではないか?」
額には、
淡く輝く紋様が浮かんでいる。
……幻獣?
そう考えていると。
髪飾りが淡く光り、
ネレイアが姿を現した。
「わぁ〜!
珍しい幻獣じゃない!」
「レオニス様、
この方は水の精霊王ネレイアです」
「……呼んでいないのに、
どうしたの?」
「だって、
幻獣なんて滅多に人前へ出てこないのよ〜?」
「気になっちゃったじゃない」
ネレイアがうさぎへ触れようとした瞬間。
ぱきん――
辺りの植物が、
一瞬で凍り付いた。
同時に、
イヤーカフが淡く光る。
「そのうさぎは我が氷属性」
現れたのは、
氷の精霊王ルシエルだった。
「許可なき者が触れれば、
凍ってしまいます」
そう言うと、
うさぎはぴょんっとルシエルの元へ駆け寄る。
「んもう!
可愛くない子ねぇ」
ネレイアが頬を膨らませた。
「そんな紋様がある子は、
みんな幻獣なの?」
そう尋ねると、
ルシエルは静かに頷く。
「災厄級の幻獣には無い者もいますが、
基本的には紋様があるものを幻獣と呼びます」
「どの子も属性があって、
魔法を使えるの?」
「強さに差はあるけど、
皆属性は持っているわね」
ネレイアがそう補足する。
「……幻影帝国にいた頃」
「塔で泣いている私を慰めてくれた子達にも、
紋様がある子が多かったわ……」
そう呟くと、
ネレイアが楽しそうに笑った。
「あははっ!
さすが誕生と同時に星幽界を共鳴させた子ね!」
「全属性を扱える月蝕の王の特権でしょうか……」
ルシエルも静かに呟く。
「まぁいいわ!
珍しいものも見れたし、
二人の邪魔をして悪かったわね〜」
「行くわよ、
ルシエル」
そうして二人は、
嵐のように消えていったのだった。
「……ごめんなさい、
騒がしくて」
「ははっ、
面白いものを見せてもらったよ」
「ミスティリアは、
幻獣にまで愛されてしまうんだな」
そう言って、
レオニス様は優しく微笑んだ。
そして。
「ところで」
「精霊王達は皆、
アクセサリーで繋がっているのか?」
「精霊王達とは、
魂で契約されています」
「ですが、
流れ込む魔力をそのまま受け取ると暴走へ繋がってしまうのです」
「だから、
膨大な魔力を安定させるために、
媒介器を身に付けています」
「……それは、
闇の精霊王もか?」
少し不安そうな声だった。
その瞬間。
私の影が、
ゆらりと揺れる。
「……ノクティスは、
媒介器ではなく私の影に潜んでいます」
「……そうか」
レオニス様は、
どこか寂しそうに笑った。
「少し……
妬いてしまうな」
「え?」
「……いや、
なんでもない」
「忘れてくれ」
そう言って、
レオニス様は視線を逸らすのだった。




