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月蝕の花嫁  作者: 紫苑ユリ
月の女神
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白夜に晴れる月

一一闇の精霊王と話した後。


目を覚ますと、

そこは王城の医務室だった。


窓の外では、

激しい雨が降り続いている。


……嵐はまだ止んでいないのか。


左手に違和感を覚え、

視線を向ける。


そこには――


俺の手を握ったまま眠る、

ミスティリアの姿があった。


「……泣かせてしまったな」


彼女の頬には、

涙の跡が残っている。


そっと指先で涙を拭った時だった。


ミスティリアがゆっくりと目を開ける。


そして、

俺の顔を見た瞬間。


信じられないというように瞳を揺らし、

再び涙を零した。


「……っ、

レオニス様……!」


「わたしっ……

私のせいで……っ……!」


「大丈夫」


「君のせいじゃない」


そう伝えると、

ミスティリアははっとしたように立ち上がった。


「すぐにお医者様を……!」


そうして慌てて、

医師と王家の皆を連れて来たのだった。


一一


しばらく検査が続いた後。


医師は驚いたように言った。


「……奇跡です」


「あの毒は致死率が非常に高い」


「朝まで持つかどうかも分からなかったというのに……」


「今は健康体そのものです」


「まるで神の加護を受けたかのようだ……」


「良かったわ……」


母上が安堵したように涙を流す。


セレフィーナも、

目を赤くしていた。


そして父上は険しい顔のまま言う。


「……厳しい処罰を与えよう」


恐らく、

毒を盛った者への処罰のことだろう。


「なら、

もう私室へ戻ってもいいかな?」


俺はベッドから起き上がりながら言った。


「せっかくの婚約パーティが台無しになったんだ」


「今日くらい、

ミスティリアと二人きりで過ごさせてくれないか」


「問題ありません」


医師は苦笑しながら頷く。


「どこにも異常はありませんから」


「……ですが、

念のため今日は安静にしてください」


「ははっ、

分かっているさ」


「何もしないよ……

多分ね」


「まぁっ!」


「なんてことを!」


母上や侍女達が、

頬を赤らめながら声を上げる。


その横で。


ミスティリアもまた、

顔を真っ赤にしていた。


そんな彼女の手を取り、

俺たちは私室へ戻ったのだった。


一一


「ルシアン」


「今日は一日、

食事も部屋へ運んでくれ」


「食事以外、

誰も近付けないでほしい」


執事へそう告げ、

やっとミスティリアと二人きりになる。


「……本当に、

お身体はなんともないのですか?」


不安そうに尋ねるミスティリア。


俺はそっと、

彼女の手を握った。


「ああ、

本当になんともない」


「そんなに心配なら、

確かめてみるかい?」


少し意地悪く言うと。


「……っ!」


ミスティリアは一瞬で顔を赤くする。


「そんなことを言えるくらい元気なら、

私は戻りますよ……!」


恥ずかしさで目尻へ涙を浮かべる姿が、

あまりにも愛らしくて。


もっと困らせたくなってしまう。


だが。


「……でも」


「私のせいで、

レオニス様が……」


そう言って、

また涙を零した。


俺はその涙へ、

そっと口付ける。


涙だけではない。


頬へ。


額へ。


そして――


唇以外の、

いろいろな場所へ。


「君には、

笑っていてほしい」


「それでも涙が止まらないなら、

もっと口付けてしまおうか」


そう言うと。


ミスティリアは、

瞳を潤ませながらも、

安堵したように微笑んだ。


そして。


彼女は静かに口を開く。


「……レオニス様が眠っている間に、

気付きました」


「私は、

貴方にいなくなってほしくないと思ったのです」


「感情を抑えられず、

嵐を呼んでしまうほどに……」


静かに。


でも、

真っ直ぐな瞳で。


彼女は言った。


「……そして、

気付きました」


「私は、

レオニス様を愛しているのだと」


その言葉に、

胸が熱くなる。


「……俺は、

もっとずっと前から愛しているよ」


そう言って、

彼女を抱き締めた。


それは、

慰めるための抱擁ではない。


互いの愛を、

ゆっくりと確かめ合うような抱擁だった。


一一


いつの間にか、

嵐は止んでいた。


白夜王国には、

眩しいほどの陽光が差し込んでいる。


ミスティリアが起こした嵐は、

人々に恐れられた。


だが同時に。


それは、

レオニスへの愛の証なのだと、

国中へ広まっていく。


そして、

嵐が止んだことで、

人々はレオニスの無事を知った。


人々は語る。


――愛し合う二人が治めるこの国には、

きっと永遠の光の加護が訪れるのだと。

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