一瞬の命、永遠の愛
……あぁ。
ついに、
恐れていたことが起きてしまった。
ミスティリアが、
レオニスへの想いを理解してしまったのだ。
小僧が倒れた瞬間、
白夜王国には嵐が訪れた。
まるで彼女の絶望を映し出すかのように。
……このまま放っておけば、
小僧は死ぬだろう。
そうすれば、
ミスティリアは再び俺だけのものになる。
そんな考えが脳裏を過った。
あの小僧を、
俺が助ける義理などない。
だが――
愛されることのないまま、
彼女は人としての生を終えた。
最近、
契約を通して流れ込んでくる感情を思えば……
どうしても、
奪うことが出来なかった。
―――
「……よう」
レオニス「……ここは……?
夢、なのか……?」
ぼんやりとした表情で、
小僧がこちらを見る。
レオニス「俺は……
死ぬのだろうか……。
彼女を置いて……」
……情けない顔をする。
「このままなら、
明日の朝には死ぬだろうな」
静かに告げる。
「ミスティリアのグラスに入っていた毒が、
巡り巡ってお前を蝕んでいるらしい」
鼻で笑う。
「そこだけは褒めてやろう」
レオニス「……そうか。
じゃあ彼女は……助かったんだな……」
そう言って、
小僧は安堵したように目を伏せる。
……本当に、
いけ好かない男だ。
「現実の白夜王国は大嵐だ。
理由くらい分かるだろう」
レオニスはゆっくりと目を見開く。
「お前が死ねば、
ミスティリアのことだ。
一生、自分を責め続ける」
だから――
「助けてやる」
レオニス「っ……
そんなことが出来るのか?」
「……だが」
闇が静かに揺らめく。
「お前とミスティリアでは、
寿命が違う」
黒月宮の深い闇の中、
低い声だけが響いた。
「お前達の一生など、
我らにとっては瞬きほどの時間だ」
静かに、
けれど重く言葉を落とす。
「それがミスティリアにとって、
どういう意味を持つか……
分かるか?」
レオニス「……ああ」
小さく、
けれど迷いなく頷く。
「魂の契約で繋がっている以上、
あいつは俺のものだ」
冷たい声音。
だがその奥には、
拭い切れない執着が滲んでいた。
「あいつは、
愛されることのないまま生を終えた」
脳裏に浮かぶ、
孤独だった彼女の記憶。
「だからせめて、
普通の恋をさせてやりたい」
闇が静かに揺れる。
「お前の寿命が尽きるまで、
ミスティリアをお前に貸してやる」
レオニスが目を見開いた。
「お前がいなくなった後は、
今度こそ俺があいつを幸せにする」
静かに告げる。
「だから寿命が尽きるその時まで、
ミスティリアを幸せにしろ」
そして、
ゆっくりと目を細めた。
「――それが、
お前を助ける条件だ」
レオニス「……元より、
そのつもりだ」
苦しげな顔のまま、
それでも小僧は笑った。
「寿命が尽きるまで、
彼女を愛し続ける」
……やはり、
好きになれない男だ。
「……今の言葉、
ゆめゆめ忘れるなよ」
そう告げると同時に、
俺は小僧の身体を蝕んでいた毒ごと、
深い闇へと溶かしていく。
――俺は、
ミスティリアを愛している。
だからこそ。
もし彼女に、
生前叶わなかった幸福が訪れるのなら。
俺は、
レオニスを愛する彼女ごと愛そう。
黒月宮の深い深い闇の中。
誰にも届かぬその想いを、
静かに胸の内で唱えるのだった。




