白夜の子うさぎ
うさぎになって二日目。
今日はフローリア王妃とセレフィーナ様と過ごす日だった。
一一
フローリア王妃は午後から貴族夫人達とのお茶会があるらしく、
午前中は刺繍をしながら侍女達へ指示を出していた。
「……そろそろ、
王妃教育もしなければいけないわね」
そう優しく微笑むフローリア王妃。
幻影帝国では、
王になるための教育しか受けてこなかった。
だから、
“王妃”というものを学べるのが少し楽しみで、
私は思わず耳をぴょこぴょこと動かした。
「まぁ、愛らしい」
「人の姿も美しいけれど、
うさぎの姿も素敵ね」
そう言って、
フローリア王妃は私をそっと抱き上げる。
その時だった。
侍女がお茶菓子を運んできたのだ。
甘い香りに、
思わず鼻がひくひくと動いてしまう。
……でも今は、
王妃様に抱っこされているし……。
「ふふっ、
好きなだけ召し上がりなさいな」
そう言って、
お茶菓子を食べさせてくださる。
だが――
「……っぐふっ」
勢いよく食べすぎて、
喉へ詰まらせてしまった。
「まぁっ!?」
「今すぐ冷たい飲み物を持ってきてちょうだい!」
慌てるフローリア王妃。
私は申し訳なさと恥ずかしさで、
耳をしゅんと垂らした。
「ふふっ、
気にしなくていいのよ」
「……そろそろ、
セレフィーナがお迎えに来る頃ね」
そう王妃が言った、
まさにその時だった。
コンコン――
「お母様!
ミスティリア様をお迎えに参りましたわ!」
元気よく入ってきたセレフィーナ様。
「ふふっ、
では後はよろしく頼みましたよ」
そうして私は、
フローリア王妃の腕の中から、
セレフィーナ様の腕の中へ移されたのだった。
一一
「お散歩へ行く前に、
まずはお着替えですわ!」
そう言って、
セレフィーナ様は私を自室へ連れて行った。
……そして。
そこには。
子うさぎサイズの小さなお洋服が、
大量に並べられていた。
「…………」
うさぎに服なんて……。
恥ずかしさで、
耳がぺたんと垂れてしまう。
だが、
そんな私の反応などお構いなしに、
セレフィーナ様の“着せ替えうさぎ”生活が始まったのだった。
「これも可愛いわ!」
「こっちも素敵ですわね!」
「きゃ〜!これも似合いますわ!」
何度も着替えさせられ、
ようやくセレフィーナ様が満足げに声を上げた。
「……これだわ!」
最終的に選ばれたのは、
白と薄青を基調とした小さな衣装。
裾には繊細なレース。
雪の結晶の刺繍。
そして首元には、
薄青の宝石が付いたリボン。
……白夜王国の王族と同じ色の瞳をした宝石だった。
「わぁ……とっても可愛い……!」
「まるで“白夜の子うさぎ”ですわ!」
侍女達も口々に言う。
「なんて愛らしいお姿……!」
「可愛すぎますわ……!」
「抱き締めたい……!」
……少し、
恥ずかしいわ。
一一
その後。
セレフィーナ様は、
服を着た私を抱えたまま、
王城中を歩き回った。
「ミスティリア様ですわ!
可愛いでしょう!?」
まるで自慢するかのように。
すると皆、
「可愛い」「愛らしい」と言いながら、
私を優しく撫でてくれるのだった。
……嬉しい。
恐れられるのではなく、
こんな風に触れてもらえる日が来るなんて。
そう思っていた時だった。
「セレフィーナ!」
聞き慣れた声が響く。
噂を聞きつけたのだろう。
レオニス様が迎えに来たのだった。
「ミスティリアが可哀想だろう!」
「お兄様!
何を仰るのです!」
「こんなに愛らしいのに!」
「確かに可愛いが、
それでなくとも子うさぎの姿で疲れやすいんだ」
「……もう十分可愛がっただろう。
返してもらう」
そう言って、
レオニス様は半ば強引に私を抱き上げた。
セレフィーナ様は、
とても不満そうなお顔をしていた。
一一
レオニス様の私室へ戻る。
「……すまない。
疲れただろう」
申し訳なさそうに言うレオニス様。
疲れていないと言えば嘘になる。
でも。
王城の皆様に受け入れてもらえたことが、
どうしようもなく嬉しかったの。
だから私は、
大きく首を横に振り、
レオニス様の胸元へ鼻を擦りつけた。
「……そうか」
「少し休むといい」
そう言って、
膝の上で優しく撫でられる。
その手が気持ち良くて。
私はすぐに、
とろんと眠くなってしまった。
……このまま、
明日も戻れなかったら。
次はアルセリオン国王の日だわ。
そんなことを考えながら、
私はゆっくり意識を手放したのだった。




