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月蝕の花嫁  作者: 紫苑ユリ
月の女神
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月うさぎと白銀の夜

朝食を終え、

レオニス様に抱かれて向かったのは、

白銀聖騎士団の訓練場だった。


「王子殿下、おはようございます!」


騎士団の方々が、

一斉に頭を下げる。


レオニス様は、

白銀聖騎士団を率いる天才剣士として有名らしい。


「ミスティリア」


「俺が訓練している間、

ここで待っていてくれるか?」


いつの間に用意されたのか、

執事の方がふかふかのクッションを置いてくれていた。


私はこくこくと頷く。


すると、

レオニス様がそっと頭を撫でてくれた。


一一


響き渡る剣戟の音。


金色の髪から滴る汗。


鍛え上げられた腕。


いつもの服では隠れている筋肉。


……なんだか、

見てはいけないものを見ている気がする。


私は両耳で目を隠し、

その隙間からそっと覗いた。


……でも、

目が離せない。


剣を握るレオニス様は、

普段よりずっと鋭く、

眩しかった。


しばらくすると、

休憩に入ったレオニス様がこちらへ戻ってきた。


……抱き上げてもらえるかしら。


思わず耳がぴこぴこと動く。


だが。


「抱いてあげたいが、

汗臭いか……」


そう言われた瞬間、

私の耳はしゅんと垂れてしまった。


「……抱かれなくて、

悲しいのか?」


くすりと笑うレオニス様。


……意地悪です。


私がふいっと顔を逸らした、

その時だった。


「……王子殿下が笑っただと?」


「あの子うさぎ、

ミスティリア様らしいぞ」


「えっ!?

なんでうさぎになってるんだ!?」


騎士団の方々がざわつき始める。


レオニス様はそれを誤魔化すように、

小さく咳払いをすると、


「……訓練を再開する」


そう言って、

再び剣を取ったのだった。


レオニス様が二度目の訓練へ戻っている間。


こっそり、

騎士団長のヴァルド様がいちごをくださった。


……もちろん、

レオニス様には内緒で。


だが、

短い前足で食べるのは思った以上に難しい。


……レオニス様が戻る前に食べ終えないと。


食いしん坊だと思われてしまうわ。


そんなことを考えながら、

必死にいちごを食べていた時だった。


「ふふっ、

食いしん坊なうさぎさんだ」


「!?」


いちごへ夢中になっていて、

レオニス様の気配にまったく気付かなかった。


……見つかってしまったわ。


しかも。


「……口元についてる」


ちゅっ――


口元の毛についたいちごの果汁を、

レオニス様に口付けるように拭われた。


……みんな見ているのに!


恥ずかしくて耳まで熱くなる。


しかも、

初めてなのに……。


子うさぎ相手になんて……!


一一


訓練を終えたレオニス様は、

湯浴みと着替えのため私室へ向かうらしい。


私も小さな足で必死に追いかけた。


……だが。


強敵が立ちはだかる。


階段だ。


……登れないわ。


その場で固まっていると、

レオニス様が気付いて抱き上げてくれた。


「可愛くて困るな、

おちびさん」


……もう。


一一


レオニス様が支度している間、

私は毛玉で遊んでいた。


……本物の毛玉と。


その後、

執務室へ向かったレオニス様に再び抱かれ、

私も一緒に移動する。


そして執務中、

私はずっとレオニス様の膝の上にいた。


真剣な眼差しで書類へ目を通すレオニス様。


時折眉間へ皺を寄せる姿は、

騎士団長の時とはまた違って見えた。


……でも。


温かい。


レオニス様の体温に安心して、

少しずつ瞼が重くなっていく。


「ミスティリア、

眠いか?」


首を横に振る。


……だが、

耳は正直だった。


やる気なく、

しゅんと垂れてしまう。


「ははっ、

分かりやすい耳だ」


そう言って撫でられると、

気持ち良くてとろんとしてしまう。


そして私は、

そのまま夢の中へ落ちていったのだった。


しばらくお昼寝をしたあと、

少しだけ庭園を散歩し、

夕食を終え――


気付けば、

また私はレオニス様の寝室にいた。


「……毎日、

これだけ一緒にいられたらいいのにな」


少し寂しそうに笑うレオニス様へ、

私はそっと鼻を擦りつけた。


「子うさぎのミスティリアも愛らしいが」


「俺は、

早く人間のミスティリアへ触れたいよ」


……ノクティスのお仕置きで、

こんな姿になってしまったせいだわ。


思わず耳がしゅんと垂れる。


その時だった。


コンコン――


不意に扉がノックされる。


驚いた私は、

思わずレオニス様のゆったりした夜着の袖の中へ潜り込んでしまった。


「……そこが落ち着くのか?」


困ったように笑うレオニス様。


……だって、

安心するのだもの。


扉の向こうにいたのは執事で、

仕事の書類を届けに来ただけだった。


一一


「そろそろ眠ろうか」


そう言って、

レオニス様は私を抱き上げ、

ベッドへ向かう。


……まさか、

また同じベッドで?


婚約もまだなのに……。


思わず暴れると、

レオニス様が少し困ったように笑った。


「……俺と同じベッドは嫌か?」


私は慌てて首を横へ振る。


……そうではないの。


ただ、

そんなことをしていいのかという理性が……。


「なら、

一緒に寝てほしいんだ」


そう言われ、

私は少し離れた場所へ横になった。


……だが。


しばらくすると、

レオニス様の体温が恋しくなってしまう。


気付けば私は、

彼の胸元へそっと身体を寄せていたのだった。

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