初めてのお茶会
あの雨の夜から、
数日が過ぎた。
今日は、
フローリア王妃とのお茶会の日。
*
始まりは、
昨夜の晩餐だった。
「そういえば、
ミスティリア様は日中何をしていらっしゃるの?」
セレフィーナ様が、
興味津々といった様子で尋ねてくる。
「魔法の特訓や読書、
庭園へお花を見に行ったりしていますね」
「お兄様!」
「まだ来たばかりのミスティリア王女を、
そんなに一人にしているの?」
「二人の時間をと思って遠慮していたのに、
不要だったみたいね」
「……すまない、
ミスティリア」
「寂しい思いをさせてしまっていたか?」
レオニス様が、
少し申し訳なさそうに言った。
「まさか、
そんなこと」
「毎日楽しく過ごしております」
そう答えると、
セレフィーナ様はぱっと笑顔になる。
「ではお茶会をしましょうよ!」
「後で日にちを知らせに行くわ!」
すると、
今まで静かに話を聞いていたフローリア王妃が、
穏やかに口を開いた。
「……明日」
「私と白薔薇庭園でお茶をしましょう」
*
「フローリア王妃殿下、
貴重なお誘いありがとうございます」
私が頭を下げると、
王妃は優しく微笑んだ。
「まぁ、
顔を上げて」
「そんなことしなくていいの」
「貴女はそのうち、
私の娘になるのだから」
……娘。
血の繋がった母でさえ、
私をそう呼ぶことは無かった。
でも、
フローリア王妃は違った。
「……っ、
ありがとうございます」
「レオニスから聞いたの」
「貴女、
白薔薇が好きなのでしょう?」
王妃は、
白薔薇の咲く庭園を見つめながら続ける。
「あの子は昔から、
感情を表へ出さない子だった」
「だから国民から、
“氷の王子”なんて呼ばれていたのよ」
「でも、
貴女と出会ってから変わったわ」
「まるで、
氷が溶かされたみたいに」
「……レオニス様が?」
「そうだったのですね……」
「私の前では、
とても暖かい方でしたから」
フローリア王妃は、
少しだけ寂しそうに笑う。
「……レオニスだけじゃないの」
「この国は、
感情を出すことをあまり良しとしない」
「まるで氷のように、
無感情でいるほど美しいとされているの」
「でも――」
「貴女を知れば知るほど、
皆の氷が溶けていく」
「……それって、
良くないことなのでは……?」
「ふふっ、
逆よ」
「そもそもおかしいと思わない?」
「人間には皆、
感情があるでしょう?」
「それを押し殺して生きる方が、
私は間違っていると思うの」
「……それに気付かせてくれたのは、
貴女よ」
王妃は、
真っ直ぐ私を見つめた。
「貴女が白夜王国へ来た日」
「私達王族は、
貴女の過去を知ったわ」
「なぜ“災厄”と呼ばれ、
閉じ込められ、
忌み嫌われていたのか」
「……月蝕の王になるまで、
全て」
「辛かったでしょう」
「苦しかったでしょう」
「なのに貴女は、
誰も憎まなかった」
「貴女や国へ刃を向けた、
白夜王国の人々でさえも」
……知られたくなかった。
キラキラとした、
この方達には。
知られてしまうには、
あまりにも深い闇だったから。
でも――
その闇を知ってなお、
普通の“ミスティリア”として接してくれた。
その事実が、
どうしようもなく嬉しくて。
気付けば、
涙が溢れていた。
「……っ、
ごめんなさい」
「嫌なことを思い出させてしまったわね」
「っいいえ、
違います……」
「ただ……
嬉しくて……」
「私の過去は、
深い深い闇で覆われています」
「それを全て知ってなお、
“ミスティリア”として接してくださったことが……」
「どうしようもなく、
嬉しいのです」
王妃は、
静かに目を細めた。
「……幻影帝国の国民を危険へ晒した、
我が国のことを恨んでいないの?」
「……私がいたから、
国民が危険へ晒された」
「だから、
白夜王国の皆様を恨むのはお門違いなのです」
「それに――」
「レオニス様や皆様は、
私へ初めて居場所をくださった方々ですから」
そうして私は、
レオニス様との出会い。
ここへ来るまでの旅のお話。
白夜王国での日々を、
少しずつフローリア王妃へ語った。
そして、
初めてのお茶会は終わった。
*
その様子を見ていた侍女達から、
“王妃とミスティリアのお茶会”
の話は城中へ広がっていく。
ミスティリアは、
“怪物”などではなく、
ただの優しい少女なのだと。
そして、
誰が言い始めたのかは分からない。
だが、
城へ仕える者達は、
皆こう呼ぶようになっていった。
――“月の女神”と。




