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月蝕の花嫁  作者: 紫苑ユリ
月の女神
55/94

初めてのお茶会

あの雨の夜から、

数日が過ぎた。


今日は、

フローリア王妃とのお茶会の日。



始まりは、

昨夜の晩餐だった。


「そういえば、

ミスティリア様は日中何をしていらっしゃるの?」


セレフィーナ様が、

興味津々といった様子で尋ねてくる。


「魔法の特訓や読書、

庭園へお花を見に行ったりしていますね」


「お兄様!」


「まだ来たばかりのミスティリア王女を、

そんなに一人にしているの?」


「二人の時間をと思って遠慮していたのに、

不要だったみたいね」


「……すまない、

ミスティリア」


「寂しい思いをさせてしまっていたか?」


レオニス様が、

少し申し訳なさそうに言った。


「まさか、

そんなこと」


「毎日楽しく過ごしております」


そう答えると、

セレフィーナ様はぱっと笑顔になる。


「ではお茶会をしましょうよ!」


「後で日にちを知らせに行くわ!」


すると、

今まで静かに話を聞いていたフローリア王妃が、

穏やかに口を開いた。


「……明日」


「私と白薔薇庭園でお茶をしましょう」



「フローリア王妃殿下、

貴重なお誘いありがとうございます」


私が頭を下げると、

王妃は優しく微笑んだ。


「まぁ、

顔を上げて」


「そんなことしなくていいの」


「貴女はそのうち、

私の娘になるのだから」


……娘。


血の繋がった母でさえ、

私をそう呼ぶことは無かった。


でも、

フローリア王妃は違った。


「……っ、

ありがとうございます」


「レオニスから聞いたの」


「貴女、

白薔薇が好きなのでしょう?」


王妃は、

白薔薇の咲く庭園を見つめながら続ける。


「あの子は昔から、

感情を表へ出さない子だった」


「だから国民から、

“氷の王子”なんて呼ばれていたのよ」


「でも、

貴女と出会ってから変わったわ」


「まるで、

氷が溶かされたみたいに」


「……レオニス様が?」


「そうだったのですね……」


「私の前では、

とても暖かい方でしたから」


フローリア王妃は、

少しだけ寂しそうに笑う。


「……レオニスだけじゃないの」


「この国は、

感情を出すことをあまり良しとしない」


「まるで氷のように、

無感情でいるほど美しいとされているの」


「でも――」


「貴女を知れば知るほど、

皆の氷が溶けていく」


「……それって、

良くないことなのでは……?」


「ふふっ、

逆よ」


「そもそもおかしいと思わない?」


「人間には皆、

感情があるでしょう?」


「それを押し殺して生きる方が、

私は間違っていると思うの」


「……それに気付かせてくれたのは、

貴女よ」


王妃は、

真っ直ぐ私を見つめた。


「貴女が白夜王国へ来た日」


「私達王族は、

貴女の過去を知ったわ」


「なぜ“災厄”と呼ばれ、

閉じ込められ、

忌み嫌われていたのか」


「……月蝕の王になるまで、

全て」


「辛かったでしょう」


「苦しかったでしょう」


「なのに貴女は、

誰も憎まなかった」


「貴女や国へ刃を向けた、

白夜王国の人々でさえも」


……知られたくなかった。


キラキラとした、

この方達には。


知られてしまうには、

あまりにも深い闇だったから。


でも――


その闇を知ってなお、

普通の“ミスティリア”として接してくれた。


その事実が、

どうしようもなく嬉しくて。


気付けば、

涙が溢れていた。


「……っ、

ごめんなさい」


「嫌なことを思い出させてしまったわね」


「っいいえ、

違います……」


「ただ……

嬉しくて……」


「私の過去は、

深い深い闇で覆われています」


「それを全て知ってなお、

“ミスティリア”として接してくださったことが……」


「どうしようもなく、

嬉しいのです」


王妃は、

静かに目を細めた。


「……幻影帝国の国民を危険へ晒した、

我が国のことを恨んでいないの?」


「……私がいたから、

国民が危険へ晒された」


「だから、

白夜王国の皆様を恨むのはお門違いなのです」


「それに――」


「レオニス様や皆様は、

私へ初めて居場所をくださった方々ですから」


そうして私は、

レオニス様との出会い。


ここへ来るまでの旅のお話。


白夜王国での日々を、

少しずつフローリア王妃へ語った。


そして、

初めてのお茶会は終わった。



その様子を見ていた侍女達から、

“王妃とミスティリアのお茶会”

の話は城中へ広がっていく。


ミスティリアは、

“怪物”などではなく、

ただの優しい少女なのだと。


そして、

誰が言い始めたのかは分からない。


だが、

城へ仕える者達は、

皆こう呼ぶようになっていった。


――“月の女神”と。

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