白夜のドレス
今日は、
いつしかレオニス様が約束してくださった、
城下町へ行く日の朝だった。
コンコンッ――
部屋の扉が叩かれる。
「……王女様!」
扉を開けると、
少し困った顔をした侍女と、
どこか興奮気味のセレフィーナ様が立っていた。
「お兄様から聞きましたわ!」
「城下町へ行くのでしょう?」
「でしたら、
私がドレスを選んで差し上げます!」
「っそんな……
私はいつもの服で……」
「この黒いドレスでは、
目立ちすぎてしまいますわ!」
……そう言われ、
私は渋々二人を部屋へ招き入れた。
「この国は、
白と青を基調としておりますの」
「ですから、
洋服もその色が多いのです」
セレフィーナ様は、
クローゼットの中を眺めながら言った。
「お兄様ったら、
ドレスの一着や二着も贈っていなかったのですね」
「あ……
いえ」
「レオニス様は、
たくさん贈ってくださいました」
「ただ……
私がまだ袖を通せていないだけなのです」
「あら、
そんなにセンスが悪かったんですの?」
「っ違います!」
「どれも本当に素敵でした」
「……素敵すぎて、
私が着る勇気が出なかったのです」
セレフィーナ様は、
不思議そうに首を傾げた。
「……幻影帝国へ帰りたいのですか?」
「っ!
まさかそんな……!」
「でしたら、
理由を教えてくださいな」
「理由が分からなければ、
私にも分かりませんもの」
……少し迷った後、
私は静かに口を開いた。
「……“災厄”と呼ばれた私が」
「光を象徴する白夜王国の衣装へ袖を通す勇気が、
出なかったのです」
その瞬間、
セレフィーナ様は苦しそうに目を伏せた。
「……貴女の過去は聞きました」
「でも」
「今、
王城内で貴女が何と呼ばれているかご存知ですか?」
……知っている。
侍女達が話しているのを、
この前聞いてしまったのだから。
セレフィーナ様は、
真っ直ぐ私を見つめて言った。
「“月の女神”」
「皆、
貴女をそう呼んでいます」
「そんなミスティリア王女へ、
私は我が国の服を着ていただきたい」
……驚いた。
まさか私が、
そんな風に呼ばれているなんて。
そうして私は、
初めて白夜王国のドレスへ袖を通すことになった。
着替えを終え、
更衣室から出る。
その瞬間――
「まあ……!」
「素敵!
素敵すぎるわ!!」
セレフィーナ様が、
嬉しそうに声を上げた。
周囲の侍女達からも、
小さな感嘆の声が漏れる。
白を基調としたドレス。
青のアクセントカラー。
銀細工の装飾は、
月光を編み込んだかのように美しかった。
「ミスティリア王女が、
初めてこの国の服を着てくださった日が」
「お兄様と城下町へ行く日だなんて」
「お兄様には感謝していただきたいものですわ!」
そう話すセレフィーナ様と共に、
私はレオニス様の待つ大広間へ向かうのだった。




