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月蝕の花嫁  作者: 紫苑ユリ
月の女神
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身近な悪意

感情を表へ出さないことから、

国民には“氷の王子”と呼ばれている俺も――


ミスティリアのこととなれば、

どうにも感情が高ぶってしまうらしい。


今日は、

王族と貴族による会議の日だった。


雪祭りについての議論が終わりかけた頃。


一人の保守派貴族が口を開いた。


「国王陛下、

お言葉ですが……」


「“災厄”と呼ばれた忌み子を、

本気で王妃にするおつもりですか?」


その言葉を皮切りに、

貴族達が次々と騒ぎ始める。


「あぁ……

王家でさえ悪魔へ魅了されてしまったのか……」


「この国も終わりだ……」


……愚かだ。


父上――

アルセリオン国王は冷静に言い放つ。


「ミスティリア王女は、

そなたらが思うような少女ではない」


「いずれ分かる」


「それに――」


「月蝕の王の加護が欲しくはないのか?」


だが、

保守派貴族達は食い下がった。


「ですが陛下!」


「月蝕の王を手に入れようと、

動き始める国も現れるでしょう!」


「あの忌み子は、

世界の均衡を崩しかねません!」


……我慢できなかった。


「彼女を侮辱するなら、

私を侮辱したと思え」


空気が凍り付く。


「……っ、

レオニス殿下……!」


「こんなくだらない話であれば、

私は失礼する」


そう言い残し、

俺は会議室を後にした。



そして、

聞いてしまったのだ。


『ねぇ、

今日の部屋付き誰?』


『粗相をしたら、

この世から消されてしまうわ……』


『出来ることなら、

部屋付きなんてなりたくないものね』


……侍女達の会話を。


ミスティリアを快く思わない者がいることくらい、

分かっていた。


だが、

こんなにも近くにいるとは。


……ミスティリア。


エレノアがいない今、

また孤独を味わってはいないか?



晩餐を終えた後、

俺はミスティリアの部屋へ向かった。


そして最初の夜と同じように、

彼女の部屋のテラスへ出る。


外は雨だった。


静かな雨音が、

夜へ溶けていく。


「……ミスティリア」


「エレノアが休暇へ行って、

寂しい思いはしていないか?」


「ふふっ」


「私は子供ではないのですよ」


そう言って、

彼女は微笑む。


……だが。


その笑顔は、

今にも壊れてしまいそうなほど儚く、

悲しげだった。


「……ミスティリア?」


「大丈夫か?」


ミスティリアは少し俯いた後、

小さな声で呟いた。


「……少しだけ」


「そばにいていただけますか……?」


……その時の俺はまだ、

侍女達の会話を、

彼女も聞いてしまっていたことを知らない。


その夜は、

雨だった。


まるで、

彼女の心のように。

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