白薔薇庭園の眠り姫
晩餐以外で、
ミスティリアと会う機会は少なくなっていた。
だからこそ、
明日の休みが待ち遠しかった。
最近ミスティリアは、
精霊王達と魔法の特訓をしているらしい。
……ならば、
俺も鍛錬を重ねなければ。
彼女を守れるように。
そう思いながら、
食事の席でミスティリアへ声を掛けた。
「ミスティリア」
「明日は休みなんだ」
「連れて行きたい場所がある」
「一緒に来てくれないか?」
幻影帝国の中庭で、
白薔薇を見つめていた彼女へ、
あの日俺は言った。
――
『……我がルクシア城には、
白薔薇が数多く咲いている』
『機会があれば……
見に来るといい』
――
……彼女は、
あの言葉を覚えているだろうか。
*
我がルクシア城の、
白薔薇庭園。
やっと、
彼女を連れて来ることができた。
「……わぁ、
綺麗だわ……!」
嬉しそうに微笑むミスティリアを見ていると、
あの日の言葉を覚えているかなど、
どうでもよくなってしまった。
……本当に、
表情が豊かになったものだ。
庭園で昼食を終えた後、
俺はミスティリアを城下町へ誘った。
「……行きたいです」
「でも……
いいのですか?」
「私と一緒にいれば、
レオニス様まで……」
そう悲しそうに言う彼女へ、
思わず苦笑する。
……困ったな。
俺はむしろ、
君を国民へ見せたいのに。
「俺が、
一緒に行きたいんだ」
そう伝えると、
ミスティリアは少し照れくさそうに笑った。
「……楽しみです」
その笑顔を見るだけで、
胸が満たされていく。
そうして俺達は、
他愛もない会話をしながら、
芝生へ寝転んでいた。
最初は戸惑っていたミスティリアだったが、
隣へ来るよう促すと、
おずおずと横へ並んだのだ。
木漏れ日。
葉が揺れる音。
柔らかな風。
穏やかな時間が流れていく。
……その時だった。
すぅ……
静かな寝息が聞こえた。
隣を見ると、
ミスティリアが眠っていた。
閉じられた目を縁取る、
長い睫毛。
月光と星屑を散りばめたような銀髪。
白い肌。
薔薇を擦り付けたような、
淡い唇。
……思わず、
悪い考えが過ぎる。
その時だった。
カサ……
花壇の方から、
微かな物音がした。
俺は即座に腰の剣へ手を掛ける。
音の正体を待っていると――
現れたのは、
雪のように白いうさぎだった。
「……?」
そのうさぎは、
まるで迷いなくミスティリアへ近付き、
横向きで眠る彼女の胸元へ、
そっと身体を寄せたのだ。
……旅の最中にも思ったが。
彼女は、
動物にまで愛されてしまうらしい。
……いや、
待て。
その額にある紋様。
「……ははっ」
「君といると、
本当に驚くことばかりだ」
幻獣。
額の紋様は、
ただのうさぎではないことを示していた。
幻獣と共に眠るミスティリアは、
本当にこの世の存在なのか疑ってしまうほど、
幻想的で美しかった。
どれほど時間が経っただろう。
やがて日が傾き始め、
俺はそっと彼女へ声を掛ける。
「……おはよう、
ミスティリア」




