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月蝕の花嫁  作者: 紫苑ユリ
月の女神
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白薔薇庭園の眠り姫

晩餐以外で、

ミスティリアと会う機会は少なくなっていた。


だからこそ、

明日の休みが待ち遠しかった。


最近ミスティリアは、

精霊王達と魔法の特訓をしているらしい。


……ならば、

俺も鍛錬を重ねなければ。


彼女を守れるように。


そう思いながら、

食事の席でミスティリアへ声を掛けた。


「ミスティリア」


「明日は休みなんだ」


「連れて行きたい場所がある」


「一緒に来てくれないか?」


幻影帝国の中庭で、

白薔薇を見つめていた彼女へ、

あの日俺は言った。


――


『……我がルクシア城には、

白薔薇が数多く咲いている』


『機会があれば……

見に来るといい』


――


……彼女は、

あの言葉を覚えているだろうか。



我がルクシア城の、

白薔薇庭園。


やっと、

彼女を連れて来ることができた。


「……わぁ、

綺麗だわ……!」


嬉しそうに微笑むミスティリアを見ていると、

あの日の言葉を覚えているかなど、

どうでもよくなってしまった。


……本当に、

表情が豊かになったものだ。


庭園で昼食を終えた後、

俺はミスティリアを城下町へ誘った。


「……行きたいです」


「でも……

いいのですか?」


「私と一緒にいれば、

レオニス様まで……」


そう悲しそうに言う彼女へ、

思わず苦笑する。


……困ったな。


俺はむしろ、

君を国民へ見せたいのに。


「俺が、

一緒に行きたいんだ」


そう伝えると、

ミスティリアは少し照れくさそうに笑った。


「……楽しみです」


その笑顔を見るだけで、

胸が満たされていく。


そうして俺達は、

他愛もない会話をしながら、

芝生へ寝転んでいた。


最初は戸惑っていたミスティリアだったが、

隣へ来るよう促すと、

おずおずと横へ並んだのだ。


木漏れ日。


葉が揺れる音。


柔らかな風。


穏やかな時間が流れていく。


……その時だった。


すぅ……


静かな寝息が聞こえた。


隣を見ると、

ミスティリアが眠っていた。


閉じられた目を縁取る、

長い睫毛。


月光と星屑を散りばめたような銀髪。


白い肌。


薔薇を擦り付けたような、

淡い唇。


……思わず、

悪い考えが過ぎる。


その時だった。


カサ……


花壇の方から、

微かな物音がした。


俺は即座に腰の剣へ手を掛ける。


音の正体を待っていると――


現れたのは、

雪のように白いうさぎだった。


「……?」


そのうさぎは、

まるで迷いなくミスティリアへ近付き、


横向きで眠る彼女の胸元へ、

そっと身体を寄せたのだ。


……旅の最中にも思ったが。


彼女は、

動物にまで愛されてしまうらしい。


……いや、

待て。


その額にある紋様。


「……ははっ」


「君といると、

本当に驚くことばかりだ」


幻獣。


額の紋様は、

ただのうさぎではないことを示していた。


幻獣と共に眠るミスティリアは、

本当にこの世の存在なのか疑ってしまうほど、

幻想的で美しかった。


どれほど時間が経っただろう。


やがて日が傾き始め、

俺はそっと彼女へ声を掛ける。


「……おはよう、

ミスティリア」

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