白薔薇の花園
レオニス様は、
“天才騎士”と呼ばれている。
白銀聖騎士団長ヴァルド様と共に、
騎士団を率いているため、
日中お会いできることはあまり無かった。
だから私は――
アルセリオン国王からお借りした場所で、
精霊王達と魔法の特訓をしていた。
「おいおい!
そんなんじゃ暖めるどころか焼き尽くしちまうぞ!」
イグニスが慌てたように叫ぶ。
「ミスティリア……
それでは津波よ……」
ネレイアも困ったように額へ手を当てていた。
……低級魔法を扱うには、
私の魔力はあまりにも強大すぎたのです。
「……闇は全てを飲み込む」
「ミスティリア、
俺の宮を思い出してもう一度やってみろ」
ノクティスにそう言われ、
私は静かに目を閉じた。
深い深い闇に包まれた、
黒月宮。
静寂。
夜の湖。
闇の花園。
その景色を思い浮かべながら、
水のせせらぎを空中へ描いていく。
次の瞬間。
美しい水の筋が、
私の周囲へ現れた。
「っ……
出来たわ!」
「すごいわミスティリア!」
セラフィナが嬉しそうに声を上げる。
魔法の特訓は、
六精霊王全員で行う日もあれば、
属性ごとに分かれて行う日もあった。
そして今日は、
全員集合の日。
「……でも、
なんで帝国の結界や氷の薔薇は作れたの?」
ネレイアが不思議そうに首を傾げる。
「……確かに」
「使ったことが無いと言う割には、
あれは最上位魔法……」
ルシエルも静かに頷いた。
「……分からないわ」
「ただ、
守りたいと思ったの」
「笑顔になってほしいって……」
「それだけよ」
「まさか、
それだけであれ程の結界を常時展開してたってのか!?」
ヴェルディアが目を丸くする。
……そんな風に、
魔法の特訓へ明け暮れていた頃。
「ミスティリア」
「明日は休みなんだ」
「連れて行きたい場所がある」
「一緒に来てくれないか?」
レオニス様にそう言われ、
翌日連れて来られたのは――
「……わぁ……
綺麗だわ……!」
一面に花々が咲き乱れる、
白薔薇庭園だった。
白い薔薇。
色とりどりの花々。
光を反射する噴水。
優しい風。
「連れて来るのが、
遅くなってしまってすまない」
「昼食はここで取ろう」
そうして食事を終えた後、
私達は木陰でゆっくり過ごしていた。
「ミスティリア」
「今度、
城下町へ行ってみないか?」
「……行きたいです」
「でも……
いいのですか?」
「私と一緒にいれば、
レオニス様まで……」
……嫌われるのは、
私だけでいい。
レオニス様まで巻き込みたくない。
するとレオニス様は、
少し困ったように笑った。
「俺が、
一緒に行きたいんだ」
「それに、
ゆくゆくは君はこの国の王妃になる」
「だから早く、
国民にミスティリアのことを知ってほしい」
「……楽しみです。
とても」
レオニス様の騎士団のお話。
私の魔法特訓のお話。
そんな他愛ない会話をしていた時だった。
「ミスティリア」
「こうやって芝生へ寝転ぶと、
気持ちいいぞ」
「まぁっ、
そんなことしていいのですか?」
「ははっ、
誰も見ていないさ」
「おいで」
そうして私は、
レオニス様に言われるまま、
そっと芝生へ寝転んだ。
柔らかな草の感触。
新緑の香り。
木漏れ日。
……こんなにも穏やかな時間が、
この世界にあったのですね。
そして私は、
いつの間にか眠ってしまったのでした。




