↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月蝕の花嫁  作者: 紫苑ユリ
月蝕の王
PR
48/94

初めての誕生日

コンコン。


「ミスティリア」


「今夜、

皆で食事をすることになってしまった」


「時間になったら、

また迎えに来る」


「それまで少し休むといい」


扉越しにそう伝えると、

少し間を置いてから、

ミスティリアの声が返ってきた。


「……いいのですか?」


「楽しみにしておきます」


扉を開けた彼女は、

少し驚いたような表情を浮かべながらも、

柔らかく微笑んでくれた。


*


晩餐の時間となり、

俺は再びミスティリアを迎えに行った。


大広間へ案内し、

彼女を自分の隣へ座らせる。


「……緊張しているのか?」


「ええ、

少し……」


そう言って、

困ったように笑うミスティリア。


……無理もない。


今日初めて会った他国の王族達と食事など、

俺だって気疲れする。


それでも彼女は、

誰へも丁寧に微笑んでいた。


そして食事を終えた頃だった。


大広間の扉が開き、

使用人達が入ってくる。


……大きなケーキを運びながら。


驚いたように目を見開くミスティリアへ、

父上が穏やかに口を開いた。


「ミスティリア王女」


「レオニスから、

今日が誕生日だと聞きました」


「改めて、

白夜王国へようこそ」


セルフィーナが、

楽しそうに笑う。


「お兄様ったら、

本当は二人きりでお祝いするつもりだったのよ!」


「セルフィーナ……!」


「ふふっ、

だって本当でしょう?」


フローリア妃も優しく微笑んだ。


「さぁミスティリア王女、

ロウソクを吹き消しなさいな」


「……ミスティリア?」


その時だった。


ミスティリアの瞳から、

一筋の涙が零れ落ちたのだ。


「っ……」


「私は……

お祝いされたことがないので……」


「自分の誕生日を、

知らないのです……っ」


「……だから」


「自分のために祝われることが、

こんなにも嬉しいことだなんて……」


声を震わせながらそう言う彼女へ、

胸が締め付けられる。


俺は静かに言った。


「ここでは、

毎年祝おう」


「ミスティリア」


「願い事を心の中で唱えながら、

ロウソクを吹き消すんだ」


ミスティリアは、

涙を拭いながら小さく頷いた。


そして――


ふっ。


灯りが消える。


フローリア妃が、

優しく問い掛けた。


「ミスティリア王女は、

何を願ったの?」


ミスティリアは、

少しだけ微笑みながら答えた。


「……生きとし生けるもの、

全ての幸せです」


……彼女は、

本当にそう願ったのだろう。


疑う余地すら無かった。


それほどまでに、

ミスティリアは優しい。


*


晩餐会も終わり、

皆が寝静まった頃。


俺は、

ミスティリアの部屋の前に立っていた。


コンコン。


「ミスティリア、

起きているか?」


返事がない。


……もう眠ったのかもしれない。


そう思い踵を返そうとした時、

扉がゆっくり開いた。


「……レオニス様?」


「すまない、

眠っていたか?」


「ちょうど、

寝ようとしていたところでした」


そう微笑む姿が、

あまりにも愛おしい。


「……ところで、

こんな夜更けにどうされたのですか?」


俺は少し迷った後、

正直に答えた。


「……会いたくなったんだ」


ミスティリアは、

一瞬目を見開いた。


そして少しだけ間を置いた後、

扉をそっと開く。


「……入りますか?」


俺達は、

ミスティリアの部屋のテラスへ出た。


白夜王国の夜景が、

月明かりの中で静かに輝いている。


「……目を閉じて、

手を貸してくれないか」


「……?」


不思議そうにしながらも、

ミスティリアは素直に右手を差し出した。


そして――


「さぁ、

目を開けてごらん」


ミスティリアが目を開ける。


その右手薬指には、

白銀の指輪が輝いていた。


「ミスティリア」


「一目見た時から、

君に惹かれていた」


「君を幸せにすると誓う」


「……君が十六歳になったら、

結婚しよう」


ミスティリアは、

静かに俺を見つめた。


そして――


「ええ、

もちろん」


と、

柔らかく微笑んだのだった。


……本来、

こんなことをする必要は無い。


ミスティリアは俺の婚約者として、

白夜王国へ来たのだから。


適齢期になれば、

結婚する運命だった。


だが、

伝えたかった。


愛を知らないまま、

愛することを辞められなかった少女へ。


愛を教えたいと。


彼女の気持ちは、

まだ分からない。


それでも、

俺の想いは止められなかった。


「ミスティリア」


「……君が欲しい」


そう告げ、

俺はそっと、

彼女の銀髪へ口付けを落としたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。