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月蝕の花嫁  作者: 紫苑ユリ
月蝕の王
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初めての誕生日

コンコン。


「ミスティリア」


「今夜、

皆で食事をすることになってしまった」


「時間になったら、

また迎えに来る」


「それまで少し休むといい」


扉越しにそう伝えると、

少し間を置いてから、

ミスティリアの声が返ってきた。


「……いいのですか?」


「楽しみにしておきます」


扉を開けた彼女は、

少し驚いたような表情を浮かべながらも、

柔らかく微笑んでくれた。



晩餐の時間となり、

俺は再びミスティリアを迎えに行った。


大広間へ案内し、

彼女を自分の隣へ座らせる。


「……緊張しているのか?」


「ええ、

少し……」


そう言って、

困ったように笑うミスティリア。


……無理もない。


今日初めて会った他国の王族達と食事など、

俺だって気疲れする。


それでも彼女は、

誰へも丁寧に微笑んでいた。


そして食事を終えた頃だった。


大広間の扉が開き、

使用人達が入ってくる。


……大きなケーキを運びながら。


驚いたように目を見開くミスティリアへ、

父上が穏やかに口を開いた。


「ミスティリア王女」


「レオニスから、

今日が誕生日だと聞きました」


「改めて、

白夜王国へようこそ」


セルフィーナが、

楽しそうに笑う。


「お兄様ったら、

本当は二人きりでお祝いするつもりだったのよ!」


「セルフィーナ……!」


「ふふっ、

だって本当でしょう?」


フローリア妃も優しく微笑んだ。


「さぁミスティリア王女、

ロウソクを吹き消しなさいな」


「……ミスティリア?」


その時だった。


ミスティリアの瞳から、

一筋の涙が零れ落ちたのだ。


「っ……」


「私は……

お祝いされたことがないので……」


「自分の誕生日を、

知らないのです……っ」


「……だから」


「自分のために祝われることが、

こんなにも嬉しいことだなんて……」


声を震わせながらそう言う彼女へ、

胸が締め付けられる。


俺は静かに言った。


「ここでは、

毎年祝おう」


「ミスティリア」


「願い事を心の中で唱えながら、

ロウソクを吹き消すんだ」


ミスティリアは、

涙を拭いながら小さく頷いた。


そして――


ふっ。


灯りが消える。


フローリア妃が、

優しく問い掛けた。


「ミスティリア王女は、

何を願ったの?」


ミスティリアは、

少しだけ微笑みながら答えた。


「……生きとし生けるもの、

全ての幸せです」


……彼女は、

本当にそう願ったのだろう。


疑う余地すら無かった。


それほどまでに、

ミスティリアは優しい。



晩餐会も終わり、

皆が寝静まった頃。


俺は、

ミスティリアの部屋の前に立っていた。


コンコン。


「ミスティリア、

起きているか?」


返事がない。


……もう眠ったのかもしれない。


そう思い踵を返そうとした時、

扉がゆっくり開いた。


「……レオニス様?」


「すまない、

眠っていたか?」


「ちょうど、

寝ようとしていたところでした」


そう微笑む姿が、

あまりにも愛おしい。


「……ところで、

こんな夜更けにどうされたのですか?」


俺は少し迷った後、

正直に答えた。


「……会いたくなったんだ」


ミスティリアは、

一瞬目を見開いた。


そして少しだけ間を置いた後、

扉をそっと開く。


「……入りますか?」


俺達は、

ミスティリアの部屋のテラスへ出た。


白夜王国の夜景が、

月明かりの中で静かに輝いている。


「……目を閉じて、

手を貸してくれないか」


「……?」


不思議そうにしながらも、

ミスティリアは素直に右手を差し出した。


そして――


「さぁ、

目を開けてごらん」


ミスティリアが目を開ける。


その右手薬指には、

白銀の指輪が輝いていた。


「ミスティリア」


「一目見た時から、

君に惹かれていた」


「君を幸せにすると誓う」


「……君が十六歳になったら、

結婚しよう」


ミスティリアは、

静かに俺を見つめた。


そして――


「ええ、

もちろん」


と、

柔らかく微笑んだのだった。


……本来、

こんなことをする必要は無い。


ミスティリアは俺の婚約者として、

白夜王国へ来たのだから。


適齢期になれば、

結婚する運命だった。


だが、

伝えたかった。


愛を知らないまま、

愛することを辞められなかった少女へ。


愛を教えたいと。


彼女の気持ちは、

まだ分からない。


それでも、

俺の想いは止められなかった。


「ミスティリア」


「……君が欲しい」


そう告げ、

俺はそっと、

彼女の銀髪へ口付けを落としたのだった。

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