月蝕の王の真実
「……ミスティリアが目を覚ました」
そう言い残し、
闇の精霊王は影の中へ消えていった。
……誰も、
すぐには言葉を発することができなかった。
あまりにも壮絶な、
ミスティリアの過去。
十四年間、
同じ城にいながら。
誰一人、
あの塔を訪れることはなかった。
そして彼女は、
孤独のまま命を落としたのだ。
「……私達は、
誤解していたのかもしれないな」
父上――
アルセリオン国王が、
静かに口を開いた。
……疑り深い父上が、
そんなことを口にするとは。
「ルーメンへ、
諜報活動を命じていた」
「“ミスティリア王女について、
出来るだけ多くの情報を持ち帰れ”とな」
「そして、
情報は一致した」
「……もちろん、
精霊界については分からん」
「だが、
精霊王が嘘を吐く必要もあるまい」
……なんと、
用意周到なお方だ。
「では……
ミスティリアへの疑念は解けた、
ということですか?」
俺がそう尋ねると、
父上は腕を組みながら目を細めた。
「いかにも、
あの幻影帝国がやりそうなことだ」
「……だが、
ミスティリア王女の全てを信用するには、
まだ時間が足りん」
「それに、
国民の中には未だ疑念を抱く者も多いだろう」
「しかし――」
「あの帝国で、
民衆から支持を得たのだ」
「我が国の凍てついた心を、
溶かしてくれるやもしれん」
その言葉に、
セルフィーナがぱっと顔を上げた。
「ねぇ!
ミスティリア王女の歓迎晩餐会をしましょうよ!」
「それ、
良い案じゃない?」
フローリア妃も、
穏やかに微笑む。
「そうね」
「ミスティリア王女と、
仲良くなっておくのは悪くないわ」
……晩餐会。
長旅で疲れている彼女には、
少し酷ではないだろうか。
そう考えていると、
ふとエレノアの言葉を思い出した。
「……実は」
「今日は、
ミスティリアの誕生日なのです」
「乳母から聞きました」
「ですので、
そろそろ失礼してもよろしいでしょうか」
セルフィーナは、
目を輝かせながら立ち上がる。
「えっ!?
じゃあみんなでお祝いしましょうよ!」
「絶対その方がいいわ!」
……気疲れするだろう。
できれば今日は、
休ませてやりたかった。
だが、
ここで断るのも面倒か……。
「……分かりました」
「では、
ミスティリアへ伝えてきます」
そう言って、
俺は王座の間を後にしたのだった。




