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月蝕の花嫁  作者: 紫苑ユリ
月蝕の王
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闇の精霊王

――ミスティリアが産声を上げた時。


世界から、

光が消えた。


人々はそれを災厄と恐れ、

“忌み子”と呼び虐げ続けた。


……だが、

あれは違う。


王の誕生を、

闇が祝福したのだ。


我らは、

ずっと彼女を見守っていた。


――あの日から、

ずっと。



母セレスティアは、

静かに涙を流していた。


父ヴァルディオスは、

生まれたばかりの王女を見下ろし、


「――成功だ」


とだけ呟いた。


ミスティリアの両親は、

“闇”と“光”を繋ぐための政略結婚。


そこに愛など無い。


生まれた王女へ、

愛情が向けられることもなかった。


それどころか、

ミスティリアは“先祖返り”として、

赤子の頃から強大すぎる魔力を宿していたのだ。


人々は王女を“忌み子”と呼び、

城の裏にある『月影の塔』へ閉じ込めた。


そして――


デビュタントを迎えるまでの十四年間。


彼女へ会いに来た者は、

乳母エレノア以外いなかった。


両親でさえ、

一度たりとも。


ミスティリアは願った。


“普通の人間として愛されたい”


……ただ、

それだけを。


ゆえに彼女は、

魔法すら使わなくなった。


強大な力を持ちながら、

低級魔法さえ扱えないほどに。


精霊達は皆、

待ち続けていた。


“月を継ぐ者”が、

この世界へ現れる瞬間を。


だから俺は考えた。


皆から忌み嫌われる彼女へ、

精霊達だけでも祝福を与えようと。


ミスティリアが、

初めて公の場へ姿を現すその日に。


六精霊王全てで、

迎えに行こうと。



デビュタントの日。


我らは祝福へ訪れた。


だが、

ミスティリアが望んだのは、

王になることでも、

我らとの契約でもない。


ただ、

普通の人間として愛されること。


……ただそれだけだった。


デビュタント以降、

ミスティリアは公の場へ姿を現すようになった。


そして国民を助け続けたのだ。


自分を“怪物”


“忌み子”


と呼び続けた者達を。


どれだけ傷付けられても、

愛することを辞められなかった。


そうしているうちに、

彼女は国民から支持を集め始める。


そして――


王室の反感を買った。


王室は、

十四年間ミスティリアへ付き添った乳母へ、

暗殺を命じたのだ。


ミスティリアは全て悟った。


王室の思惑。


自分が死ななければ辿るであろう、

エレノアの末路。


だから彼女は、

自ら胸へ短剣を突き立て、

塔から身を投げたのだ。



我ら精霊が暮らす“星幽界”は、

ミスティリアの誕生へ共鳴した。


あの子が産声を上げた瞬間、

世界そのものが震えたのだ。


月が震え、

六つの領域が輝いた。


精霊達は皆理解した。


“月を継ぐ者”が現れたのだと。


……しかし。


あの日。


月が割れた。


全属性を宿すミスティリアが死んだことで、

世界は崩壊しかけたのだ。


六つの領域は暴走を始めた。


炎は世界を焼こうとし、


海は溢れ、


雷は空を裂き、


氷は命を閉ざし、


光すら均衡を失った。


……あの子は、

世界の核だった。


だから我ら六精霊王は、

ミスティリアと契約を結び、


“月蝕の王”


として復活させたのだ。


……それが、

彼女の望んだ道でなかったとしても。



これほどの魔力を持ちながら、

あれほど清らかな魂を持つ者が、

かつて存在しただろうか。


多くの者は、

力を得れば心を濁らせる。


欲へ溺れ、

他者を見下し、

やがて光を失っていく。


――だが、

ミスティリアは違った。


ミスティリアは、

怪物でも、

忌み子でもない。


ただの――


可哀想で、

心優しい少女なのだ。

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