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月蝕の花嫁  作者: 紫苑ユリ
月蝕の王
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闇の精霊王

――ミスティリアが産声を上げた時。


世界から、

光が消えた。


人々はそれを災厄と恐れ、

“忌み子”と呼び虐げ続けた。


……だが、

あれは違う。


王の誕生を、

闇が祝福したのだ。


我らは、

ずっと彼女を見守っていた。


――あの日から、

ずっと。


*


母セレスティアは、

静かに涙を流していた。


父ヴァルディオスは、

生まれたばかりの王女を見下ろし、


「――成功だ」


とだけ呟いた。


ミスティリアの両親は、

“闇”と“光”を繋ぐための政略結婚。


そこに愛など無い。


生まれた王女へ、

愛情が向けられることもなかった。


それどころか、

ミスティリアは“先祖返り”として、

赤子の頃から強大すぎる魔力を宿していたのだ。


人々は王女を“忌み子”と呼び、

城の裏にある『月影の塔』へ閉じ込めた。


そして――


デビュタントを迎えるまでの十四年間。


彼女へ会いに来た者は、

乳母エレノア以外いなかった。


両親でさえ、

一度たりとも。


ミスティリアは願った。


“普通の人間として愛されたい”


……ただ、

それだけを。


ゆえに彼女は、

魔法すら使わなくなった。


強大な力を持ちながら、

低級魔法さえ扱えないほどに。


精霊達は皆、

待ち続けていた。


“月を継ぐ者”が、

この世界へ現れる瞬間を。


だから俺は考えた。


皆から忌み嫌われる彼女へ、

精霊達だけでも祝福を与えようと。


ミスティリアが、

初めて公の場へ姿を現すその日に。


六精霊王全てで、

迎えに行こうと。


*


デビュタントの日。


我らは祝福へ訪れた。


だが、

ミスティリアが望んだのは、

王になることでも、

我らとの契約でもない。


ただ、

普通の人間として愛されること。


……ただそれだけだった。


デビュタント以降、

ミスティリアは公の場へ姿を現すようになった。


そして国民を助け続けたのだ。


自分を“怪物”


“忌み子”


と呼び続けた者達を。


どれだけ傷付けられても、

愛することを辞められなかった。


そうしているうちに、

彼女は国民から支持を集め始める。


そして――


王室の反感を買った。


王室は、

十四年間ミスティリアへ付き添った乳母へ、

暗殺を命じたのだ。


ミスティリアは全て悟った。


王室の思惑。


自分が死ななければ辿るであろう、

エレノアの末路。


だから彼女は、

自ら胸へ短剣を突き立て、

塔から身を投げたのだ。


*


我ら精霊が暮らす“星幽界”は、

ミスティリアの誕生へ共鳴した。


あの子が産声を上げた瞬間、

世界そのものが震えたのだ。


月が震え、

六つの領域が輝いた。


精霊達は皆理解した。


“月を継ぐ者”が現れたのだと。


……しかし。


あの日。


月が割れた。


全属性を宿すミスティリアが死んだことで、

世界は崩壊しかけたのだ。


六つの領域は暴走を始めた。


炎は世界を焼こうとし、


海は溢れ、


雷は空を裂き、


氷は命を閉ざし、


光すら均衡を失った。


……あの子は、

世界の核だった。


だから我ら六精霊王は、

ミスティリアと契約を結び、


“月蝕の王”


として復活させたのだ。


……それが、

彼女の望んだ道でなかったとしても。


*


これほどの魔力を持ちながら、

あれほど清らかな魂を持つ者が、

かつて存在しただろうか。


多くの者は、

力を得れば心を濁らせる。


欲へ溺れ、

他者を見下し、

やがて光を失っていく。


――だが、

ミスティリアは違った。


ミスティリアは、

怪物でも、

忌み子でもない。


ただの――


可哀想で、

心優しい少女なのだ。

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