黒月宮
レオニス様と別れた後、
明日の王城入りへ備え、
私はすぐ眠りについた。
「……あぁ、
不愉快だ」
「とても……」
聞き慣れた低い声に、
私はゆっくり目を開けた。
「……今日は、
ノクティスだけなの?」
「あぁ」
辺りを見渡して、
私は小さく首を傾げる。
「今日は真っ暗だわ」
「まるで、
闇の中みたい……」
「ここは俺の属性領域」
「――黒月宮だ」
そこは、
深い闇に包まれた花園だった。
漆黒の花々。
黒い月。
夜空のような湖。
……けれど不思議と、
恐ろしくはない。
「今まで、
こんなこと無かったのに」
「珍しいわね」
紫色の瞳が、
真っ直ぐ私を見つめていた。
……いつもと違う。
そう確信した。
「あぁ」
「このまま、
閉じ込めてしまいたい」
「深い深い闇の中で、
二人きり……」
「……ちょっと、
どうしたの?」
ノクティスが、
ゆっくり近付いてくる。
思わず後ずさると、
背中へ花垣がぶつかった。
次の瞬間。
ノクティスの左手が、
私の腰を抱き寄せる。
そして右手が、
私の左手を掴んだ。
「ノクティス……?」
顔が近付く。
紫の瞳が、
私しか映していない。
……唇が重なる。
そう思った瞬間だった。
ノクティスは、
突然私を解放した。
「……無理矢理して、
お前に嫌われる方が苦しい」
「お前が嫌がることはしないと誓おう」
「だから――」
「たまにこうして、
二人きりで会いたい」
……ノクティスったら、
何を言っているのかしら。
「もちろん」
「毎日だって、
会いに来るわ」
ノクティスは少し驚いたように、
目を細めた。
「……怖くないのか」
「こんな事をして」
「……でも、
結局していないじゃない」
「私が嫌がることは、
しないのでしょう?」
「……あぁ」
ノクティスは小さく笑った。
「日中は、
あの小僧へミスティリアを貸してやろう」
「だが夢の中では、
俺と会え」
その言葉を最後に、
私の意識はゆっくり浮上していった。
そして夜が明ける。
今日は、
ルクシア城へ入城する日。
王家の馬車ということもあり、
街中の視線が集まっていた。
……何より。
私と一緒にいることで、
レオニス様の評判が悪くなってしまったら……。
そんなことを考えていると、
レオニス様が優しく声を掛けてくださる。
「ミスティリア、
ルクシア城だ」
白銀に輝く巨大な城。
幻影帝国とは全く違う、
光の王城。
「疲れているだろう」
「部屋を用意させてある」
「先に私室で休むといい」
「乳母は先に着いて、
君を待っているそうだ」
「……国王への挨拶の時間になったら、
迎えに行く」
……レオニス様は、
どこまでも優しい方なのですね。
ご家族も、
きっと素敵な方々なのでしょう。
「……ミスティリア様っ!」
「エレノアっ!」
王族と使用人では、
城へ入る経路が違った為、
エレノアは先に到着していたらしい。
五日ぶりの再会を喜んでいると――
コンコン。
扉が叩かれた。
「ミスティリア」
「国王がお呼びだ」
レオニス様が、
迎えに来てくださったのだった




