白夜へ
白夜領へ入ってすぐ。
俺には、
どうしてもミスティリアへ見せたい景色があった。
――白薔薇街道。
一面に咲き誇る白薔薇。
雪のように白い石畳。
光を反射する湖。
白夜王国が最も誇る、
美しき街道だ。
馬車の中で眠っていたミスティリアは、
ゆっくり目を開けると、
「……綺麗……」
と、
小さく呟いたのだった。
そして到着した、
白薔薇街道の離宮。
噴水へ腰掛け、
小鳥達と戯れる彼女を見た時、
俺は思った。
……まるで、
この景色そのものが、
彼女の為に存在しているかのようだと。
月光のような銀髪。
儚く輝く黄金の瞳。
白薔薇に囲まれたその姿は、
あまりにも神々しかった。
「ミスティリア」
「……もうすぐ、
白夜王国だ」
――そして、
七日目。
俺達は、
白夜王国の前泊宮殿へ向かっていた。
白夜領へ入った瞬間、
民衆達の視線が、
一斉に白銀の馬車へ向けられる。
「……あれ、
王家の馬車じゃないか?」
「白銀聖騎士団までいるぞ……」
「まさか……」
「“月蝕の王”か……?」
その名が出た瞬間、
空気が変わった。
恐れる者。
怯える者。
好奇の目を向ける者。
……だが。
誰一人、
目を逸らすことはできなかった。
白銀の馬車の窓から、
月光のような銀髪が見えた瞬間――
「……綺麗……」
「まるで、
月の女神様みたい……」
誰かが、
小さく呟いたのだった。
……彼女を、
好奇の目へ晒したくはなかった。
だから婚約の件も、
まだ公にはしていない。
だが、
国民へ見られてしまった以上、
噂は瞬く間に広がるだろう。
それに……
やはり、
良い反応ばかりではなかった。
「ミスティリア、
大丈夫か?」
そう尋ねると、
彼女は柔らかく微笑んだ。
「ええ」
「とっても綺麗な国ですね」
「幻影帝国とは、
全然雰囲気が違うのですね」
「……気に入ってくれたか?」
「もちろん」
「連れて来ていただいて、
ありがとうございます」
……民衆の反応に、
気付いていないはずがない。
それなのに彼女は、
何事も無かったかのように笑うのだ。
その強さが、
どうしようもなく苦しかった。
夕食を終えた後、
俺はミスティリアをテラスへ誘った。
「わぁ……!
綺麗ですね……!」
夜景を見た彼女が、
嬉しそうに目を輝かせる。
「……あそこに見えるのが、
我がルクシア城だ」
白銀の城は、
月明かりを受け静かに輝いていた。
「明日から、
あそこがミスティリアの家になる」
その言葉に、
彼女は少しだけ驚いたように目を見開いた後、
……とても優しく、
微笑んだのだった。
そして静かに、
夜は明けていく。




