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月蝕の花嫁  作者: 紫苑ユリ
月蝕の王
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白銀の旅路

「わぁ……!

お姫様みたい!」


停電したと聞き、

ミスティリアの無事を確かめるため駆け付けた時だった。


次の瞬間、

部屋に眩い光が灯ったのだ。


ミスティリアの魔法を見た子供達が、

目を輝かせながら歓声を上げる。


すると彼女は、

少し照れくさそうに微笑んだ。


「ミスティリアはすごいな」


「どこでも、

誰でも助けてしまう」


「レオニス様……

そんなことないですよ……!」


「この魔法だって、

消せないですし……」


「ははっ」


「それでも、

真っ暗よりはずっとマシだろう?」


最近、

彼女の表情が豊かになった気がする。


……気のせいなのだろうか。


そして五日目。


白銀聖騎士団の基地となる砦へ向かう途中だった。


一面に広がる雪景色を見たミスティリアは、

子供のように目を輝かせていた。


……その姿から、

目が離せなかった。


「寒くないか?」


「ええ、

大丈夫です」


「……震えているぞ」


「……少し……」


困ったように笑う彼女を見て、

俺は気付いた。


彼女は今まで、

“自分の意思”を口にできる環境ではなかったのだと。


……考え無しの自分が、

恥ずかしく思えた。


俺は炎の魔力を込めた毛布を彼女へ渡し、

静かに言った。


「これからは、

自分の気持ちを素直に言っていい」


「誰も、

お前を咎めたりしない」


その時だった。


俺は、

ある違和感に気付く。


……炎の魔力なら、

ミスティリア自身の方が遥かに強い。


精霊王達もいる。


ならば、

わざわざ俺が魔法を掛ける必要など無いはずだ。


「……なぜ、

炎魔法を使わないんだ?」


「容易いだろう?」


ミスティリアは静かに首を横へ振った。


「私は“怪物”と呼ばれ、

十四年間閉じ込められていました」


「そんな私は……

少しでも普通の人間へ近付きたくて、

魔法を一切使わなかったのです」


「……だから、

低級魔法も使えないものが多いのですよ」


彼女の闇は、

一体どれほど深いのだろう。


……俺は、

それを照らすことができるのだろうか。


砦へ到着し、

夕食を終えた後。


皆が寝静まった頃、

俺は一人テラスへ出た。


「……レオニス王子っ!?」


振り返ると、

隣の部屋のテラスにミスティリアが立っていた。


「ミスティリア、

風邪を引くぞ」


雪景色の中、

月明かりに照らされる彼女は、

あまりにも幻想的で。


……思わず、

声を掛けてしまった。


「……そっちへ行ってもいいか?」


「上着を持って行く」


「ええ、

ありがとうございます」


「眠れないのか?」


そう尋ねると、

ミスティリアは少しだけ瞳を揺らした。


「……白夜王国でも、

私は怖がられるかしら」


その不安そうな声音に、

俺はすぐ答えることができなかった。


「……白夜は閉鎖的な国だ」


「だから、

分からない」


「……だが」


「俺は何があっても、

お前の味方だと約束しよう」


ミスティリアは、

安堵したように微笑んだ。


「ふふっ……

それなら安心して向かえます」


「レオニス様の国へ……」


そして六日目。


白夜王国領へ入って最初にある、

“白薔薇街道の離宮”へ向かう途中だった。


「……ミスティリア、

眠いのか?」


「ごめんなさい……

あの後、

あまり眠れなくて……」


「そうか」


「白夜領へ入るまでまだ時間が掛かる」


「少し眠るといい」


「……いえ、

でも……」


「昼食の時には起こしてやる」


「だから眠れ」


そう言って、

向かいへ座っていた彼女の隣へ移動した。


「……レオニス様っ!?

どうして隣に……」


「首を痛めるぞ」


「肩を貸してやる」


「……では、

少しだけ……」


肩を貸したのはいいものの、

高鳴る胸の鼓動が聞こえてしまわないか、

気が気ではなかった。


……しばらくして。


ミスティリアは静かに、

眠りへ落ちていったのだった。


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