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月蝕の花嫁  作者: 紫苑ユリ
月蝕の王
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初めての世界

ミスティリアを迎えに行ってからというもの、

驚かされることばかりだった。


城門へ向かう途中、

国民達は次々と跪き、

彼女へ祝福を送っていたのだ。


かつて“災厄”と恐れられた少女が、

今や民に愛されている。


……不思議な光景だった。


「……こんなにも国民に愛されているのだな」


「寂しくはないのか?」


俺がそう尋ねると、

ミスティリアは少しだけ困ったように微笑んだ。


「寂しくないと言ったら、

嘘になります」


「……でも」


「エレノアや精霊王達、

それにレオニス様がいるから」


その言葉に、

心臓が大きく跳ねた。


馬車は城門を抜け、

幻影帝国の黒き森へ入っていく。


月光すら呑み込むような深い森。


だがミスティリアは、

窓の外を見つめながら、

まるで子供のように目を輝かせていた。


……そうか。


彼女は、

“旅”をしたことがないのか。


塔の中で生きてきた少女。


だからこそ、

色々な景色を見せたいと思った。


「……酔っていないか?」


「ええ、

ありがとうございます」


俺達は、

離れていた時間を埋めるように、

色々な話をした。


好きなもの。


嫌いなもの。


幼い頃のこと。


それぞれの国のこと。


そうしているうちに、

馬車はあっという間に月影離宮へ到着したのだった。


ミスティリアと食事を終え、

俺達はそれぞれの部屋へ戻った。


……婚約者となるのだから、

同じ部屋でも問題は無かったのかもしれない。


だが。


ミスティリアの気持ちも分からないまま、

距離を詰めて嫌われたくはなかった。


それでも。


彼女のことを考えていると、

どうにも眠ることができない。


気付けば俺は、

月影離宮の中庭へ足を運んでいた。


彼女と出会う時、

いつも傍には花がある。


そして今日もまた――


白薔薇の前に、

彼女は立っていた。


「……ミスティリア」


「レオニス王子……?」


「眠れないのですか?」


「はは……

それは君もだろう」


そう言うと、

ミスティリアは少し恥ずかしそうに目を伏せた。


「……やはり、

不安か?」


だが彼女は、

ゆっくりと首を横に振った。


「いいえ、

そうではないのです」


「エレノア以外、

初めて声を掛けてくださった」


「初めて、

“また会おう”と約束してくれた」


「初めて、

外の世界へ連れ出してくれた」


「初めて、

誰かと食事をした」


「レオニス王子と出会ってから、

“初めて”ばかりで……」


「……とても、

嬉しいのです」


月明かりの中、

彼女は柔らかく微笑んだ。


……抱き寄せたいと思った。


同時に、

壊してはいけないとも思った。


彼女はあまりにも、

儚すぎる。


少女が背負うには、

あまりにも寂しい人生だった。


……だからこそ。


これからは、

俺が彼女へ光を与えたい。


そう強く思ったのだ。


その後、

俺達は互いに「おやすみ」を告げ、

それぞれの部屋へ戻った。


そして静かに、

夜は更けていったのである。


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