旅立ち
あの夜から二日が過ぎ――
今日は、
ミスティリア様が白夜王国へ向かわれる日でございます。
……ですが。
王室の皆様による見送りは、
ございませんでした。
定刻通り、
白夜王国の使節団が到着いたします。
白銀の装飾が施された馬車。
白銀聖騎士団。
そして――
レオニス王子。
私は、
少し不安げなお顔をされるミスティリア様へ、
そっと声を掛けました。
「ミスティリア様、
大丈夫ですよ」
ミスティリア様は、
少しだけ寂しそうに微笑まれます。
「……少し、
寂しくなってしまって」
その時でした。
「ミスティリア」
「迎えに来た」
レオニス王子が、
真っ直ぐミスティリア様を見つめながら、
そう仰ったのです。
ミスティリア様は小さく頷き、
レオニス王子と共に馬車へ乗り込まれました。
白夜王国までは、
七日間の旅路。
……どうか、
何事も無ければ良いのですが。
馬車が王城を離れ、
城門へ向かっていた時でした。
窓の外を見たミスティリア様が、
小さく息を呑まれたのです。
――国民達が、
跪いていたのでした。
それは恐怖ではなく。
“王”への敬意。
そして、
幸せを願う祈り。
ミスティリア様は、
目を大きく見開かれたまま、
静かにその光景を見つめておられます。
……あぁ。
ミスティリア様は、
幸せになるべきお方。
やっと、
やっと、
皆に認められたのですね。
城門を抜けると、
馬車は幻影帝国の黒き森へ入っていきます。
月光すら届きにくい、
静かな森。
今日の目的地は、
幻影帝国領にある月影離宮でございます。
長旅となるため、
本日はそこで休息を取る予定でした。
――どれほど経ったでしょう。日が沈みかける頃。
馬車は無事、
月影離宮へ到着いたしました。
私はミスティリア様の元へ向かいます。
「お身体、
大丈夫ですか?」
するとミスティリア様は、
柔らかく微笑まれたのです。
「ええ」
「レオニス王子が、
ずっと気遣ってくださったおかげで、
心地よく旅ができているわ」
そう仰るミスティリア様のお顔は、
いつもより少し穏やかに見えました。
白夜王国まで続く、
七日間の旅路。
……まだ、
始まったばかりです。




