兄達の懺悔
ミスティリア様が帝国を救ってから、
幾日が過ぎたでしょうか。
もうすぐ、
ミスティリア様の十五のお誕生日でございます。
そんな今日。
王室晩餐会が開かれておりました。
……ミスティリア様を除いて。
「ミスティリアを白夜王国へ送る」
「第一王子レオニスの婚約者としてな」
ヴァルディオス様は、
まるで天気の話でもするかのように、
淡々と仰ったのです。
「まぁ!
では次期国王は私ですか!?」
喜びの声を上げたのは、
ルシエラ様でした。
ですが、
ヴァルディオス様は冷たく言い放ちます。
「お前は感情のまま帝国を危機へ陥れた」
「王の器ではない」
「よって、
王位継承権を剥奪する」
「そんなっ……
そんなぁぁぁっ!!」
……国家戦力である月蝕王を、
白夜王国へ送るなど本来あり得ません。
ですが。
セレスティア妃は既に壊れ始め、
ルシエラ様は月蝕王へ異常な執着を見せている。
このまま帝国内へ置けば、
再び愚かな争いが起こるでしょう。
それに――
“月蝕王がどこへ居ようと、
世界の均衡は幻影帝国にある”
ヴァルディオス様は、
そうお考えなのでしょう。
「エレノア」
「ミスティリアへ伝えろ」
「レオニス王子の婚約者として、
白夜王国へ向かえと」
「二日後、
白夜から迎えが来る」
――そうして。
ミスティリア様の白夜行きが、
決まったのでした。
晩餐会が終わり、
月影の塔へ向かっていた途中でした。
「……エレノア!
待ってくれ!」
振り返ると、
アレス様とレイン様が駆け寄って来られたのです。
「これを……
ミスティリアへ渡してくれないか」
「許されないかもしれない。
でも謝りたいんだ」
「彼女が隣国へ行く前に……」
そう言って渡されたのは、
美しい紫水晶でした。
……この方達は、
本当に不器用なのですね。
「でしたら、
直接謝罪されてはいかがですか?」
「エレノアもご一緒いたします」
「……でも、
本当にいいのか……?」
不安そうなお二人へ、
私は静かに頷きました。
そして三人で、
月影の塔へ向かったのです。
「……こんな場所で、
十四年間も一人だったのか……」
レイン様が、
苦しそうに呟かれました。
扉を開けると、
窓辺で月を見つめるミスティリア様がおられました。
「ねぇ、エレノア……?
……っ」
振り返ったミスティリア様は、
大変驚いたお顔をされます。
……無理もありません。
十四年間、
一度も訪れることのなかった兄君達が、
そこにいたのですから。
「ミスティリア、
ごめん……!」
「俺達は誤解していた」
「お前が、
皆の言うような忌み子じゃないって気付いても、
手を差し伸べられなかった」
「……たった一人の妹なのに」
ミスティリア様は、
大きく目を見開かれました。
そして。
いつものように、
優しく微笑まれたのです。
「……お兄様、
と呼んでもいいですか……?」
その瞳からは、
一筋の涙が零れておりました。
「あぁ……
もちろんだ!」
二人はミスティリア様へ駆け寄り、
強く抱き締めたのでした。
それからというもの、
三人は夜更けまで語り合われました。
まるで、
今まで離れていた心を、
少しずつ手繰り寄せるように。
「さぁ、
そろそろお休みの時間ですよ」
私がそう言うと、
アレス様が少し名残惜しそうに仰いました。
「ミスティリア、
明日も来ていいか?」
「もちろん!
お待ちしています」
「……あぁ、
じゃあおやすみ」
二人きりになった塔の中。
私は、
ヴァルディオス様からの言伝を、
ミスティリア様へお伝えしました。
……酷なことだと分かっています。
やっと、
王子達とのわだかまりが溶け始めたというのに。
ですがミスティリア様は、
ただ静かに、
「……分かったわ」
とだけ仰ったのです。
「ねぇ、エレノア」
「白夜王国には、
貴女も一緒よね?」
「もちろんでございます」
「エレノアは、
いつまでもミスティリア様のお傍におります」
愛しのミスティリア様。
私の命は、
貴女様のもの。
……決して、
お一人にはいたしません。
「レオニス王子のいらっしゃる国は、
どんな場所なの……?」
少しだけ不安そうに尋ねられるミスティリア様へ、
私は優しく微笑みました。
「それはそれは美しい国だと、
聞いたことがあります」
「私も訪れたことはございませんが、
レオニス王子自ら迎えに来てくださるとのこと」
「……きっと、
大丈夫ですよ」
月明かりが差し込む塔の中。
ミスティリア様は静かに窓の外を見つめ、
そして小さく、
微笑まれたのでした。




