白夜の王女
白薔薇が咲き誇る庭。
またミスティリア様が民衆を救ったと聞いた。
その日、
隣国・幻影帝国の空には、
巨大な魔法陣が浮かび上がったのだから、
噂になるのも無理はない。
十四歳まで、
“災厄”
と恐れられ、
塔へ閉じ込められていたという彼女。
忌み嫌われ続けた少女が、
何故そこまで人を救えるのか。
私には分からなかった。
――私だったら、
全員地獄へ突き落としているわ。
白夜王国第一王女、
セレフィーナ・ルクシアはそう思うのだった。
そんなことを考えていると、
兄――レオニスお兄様が庭へやって来た。
……そういえば。
お兄様は何度か、
ミスティリア様へ会っているのよね。
「ねぇ、お兄様。
ミスティリア様ってどんな人なの?」
「……なんだ。
お前が他人へ興味を示すとは珍しいな」
「また“月蝕の王”が民を助けたって、
その話ばかり聞くんだもの」
「で?
“怪物”と呼ばれたその子は、
どんな人なの?」
するとお兄様は、
少しだけ寂しそうに目を伏せた。
「……ミスティリアは、
怪物なんかじゃない」
「疎まれ続けても、
刃を向けられても、
愛することを辞められない」
「……可哀想で、
優しい、
ただの少女だよ」
……氷の王子と呼ばれたお兄様に、
こんな顔をさせる“怪物”
私は、
その人へ会ってみたくなった。
そういえばお兄様、
以前ミスティリア様を妃へ迎えたいと申し出て、
謹慎になっていたのよね。
「ふ〜ん」
「ねぇ、お兄様。
ミスティリア様を婚約者として、
この国へ迎え入れたらいいじゃない」
「……そんなこと、
父上が許さないさ」
「お兄様だけなら、
……ね?」
その夜は、
白夜王国の王族が揃っての夕食だった。
「ねぇ、お父様。
幻影帝国のミスティリア様って、
本当に“災厄”なの?」
「……災厄の忌み子だ」
「本当にそうかしら?」
「お父様、
ミスティリア様へ会ったことはあるの?」
「最近の彼女の活躍を聞いて?」
「……何が言いたい。
セレフィーナ」
お父様に睨まれ、
部屋の温度が下がる。
でも私は気にせず続けた。
「今や帝国内で、
彼女は英雄なのでしょう?」
「それなのに、
王室からは疎まれている」
「だったら、
白夜王国へお招きしたらいいじゃない」
「……お兄様の婚約者として」
「……災厄が起こる」
「でも彼女は、
災厄すら鎮める力を持っているわ」
「それに、
もし白夜王国で何か起これば、
危険へ晒されるのは民衆よ」
「そんなこと、
ミスティリア様は絶対しないでしょう?」
しばし沈黙が落ちた。
そして静かに口を開いたのは、
母上――フローリア・ルクシアだった。
「……それもそうね」
「国交安定のためにも、
良いのではなくて?」
……興味を持っていたのは、
私だけではなかったらしい。
「で?」
「お兄様はどうしたいの?」
お兄様は静かに立ち上がると、
真っ直ぐお父様を見つめた。
「以前申し上げた通り、
私はミスティリアを妃へ迎えたく思っています」
「どうか、
お許しいただけないでしょうか」
お父様はしばらく黙っていた。
そして――
「……レオニス」
「隣国へ手紙を出せ」
「“月蝕の王”を、
白夜王国へ迎え入れる」
……あぁ。
ついに、
ミスティリア様へ会えるのね。
楽しみだわ。




