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月蝕の花嫁  作者: 紫苑ユリ
月蝕の王
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月明かりの夜

何故、

あんなことを言ったのかは分からない。


……だが、

もっと彼女へ近付きたいと思った。


そして、

場所を変えた俺達は、

月影の塔へ来ていた。


未婚の女性が、

男を私室へ入れるなど本来あり得ない。


彼女も、

少し迷っているようだった。


……だが、

すぐに気付いた。


今まで“忌み子”として疎まれ続けた彼女にとって、

心置きなく過ごせる場所は、

ここしか無かったのだと。


「……使用人はいないのですか?」


思わずそう尋ねた。


だが、

彼女の答えを聞いた瞬間、

俺は後悔した。


「前は乳母がいました」


「でも……

姿が変わってからは、

彼女を怖がらせてしまうから……」


そう言って、

彼女は困ったように笑った。


……大陸中が、

彼女を恐れている。


“月蝕の王”


“世界を滅ぼす怪物”


そんな噂ばかりが広がっていた。


「……大陸中で、

貴女の話がされています」


「疎まれ続けた月蝕の王は、

いずれ人間へ刃を向けるのではないかと……」


月明かりの中、

彼女の影が静かに揺らめく。


精霊王達の怒りを買ったのかもしれない。


だが、

一国の王子である以上、

知らねばならなかった。


すると彼女は、

少しだけ寂しそうに微笑んだ。


「……ふふっ」


「私も、

人間ですよ……?」


「血を流して得られるものなど、

何も無いと言うのに」


「皆は……

何を恐れているのでしょうね」


そして、

月光を見上げながら、

小さく呟いた。


「……それに私は、

王になどなりたくなかった」


その言葉は、

月明かりの中へ儚く溶けていく。


「すみません……

こんな話をするつもりでは……」


だが彼女は、

静かに首を横へ振った。


「良いのです」


「レオニス様も、

一国の王子ですから」


「国民を守るのも、

お務めなのでしょう」


「私が、

大陸中の脅威となっていることくらい、

理解していますから」


……そして。


彼女は、

少しだけ困ったように笑って言ったのだ。


「それより……」


「最初のように、

話していただけませんか?」


……彼女は、

どこまで俺の心を奪っていくのだろう。


互いの好きなもの。


嫌いなもの。


幼少期、

どのように過ごしたか。


それぞれの国について。


知らないことばかりだった彼女へ、

俺達は夜が更けるのも忘れて語り合った。


……どれほど時間が経っただろう。


気付けば俺達は、

互いをファーストネームで呼ぶようになっていた。


“月蝕の王”


と呼ばれ、

人々から恐れられた彼女は――


ただの、

優しい少女だった。


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