白薔薇の君
謹慎が解かれ、
私室から白い廊下へ出る。
事の発端は、
父――
国王アルセリオンへ、
「隣国の王女ミスティリアを、
妃として迎えたい」
と申し出たことだった。
――大陸中へ、
彼女の噂は広まっていた。
“怪物”
“忌み子”
そう呼ばれ続け、
十四年間、
塔へ閉じ込められていた王女。
彼女が初めて公の場へ姿を現した、
デビュタントの日。
俺は、
聖騎士団長ヴァルドと共に、
幻影帝国を訪れていた。
……あの時、
確かに目を奪われたのだ。
彼女の、
あまりにも美しい姿に。
だが、
精霊王達が祝福へ訪れたことで、
舞踏会は騒然となり、
そのまま中断されてしまった。
……それでも、
俺は忘れられなかった。
――だが相手は、
“あの忌み子”だ。
魅了の術でも使われたのかもしれない。
そう自分へ言い聞かせ、
高鳴る感情を押し殺した。
その後、
“幻影帝国監視”
という名目で、
再び帝国を訪れた。
そこで見たのは、
十四年間塔へ閉じ込められていたとは思えぬほど、
穏やかに人々へ愛を与える王女の姿だった。
城下町で人助けをして回る、
孤独な王女。
……そしてある日。
王城の中庭で、
薔薇を見つめる彼女を見つけた。
「……その花が好きなのか?」
気付けば、
そう声を掛けていた。
「ええ、とても」
柔らかく微笑む彼女を見た瞬間、
凍りついていた何かが、
自分の中で静かに溶けていく気がした。
「……我がルクシア城には、
白薔薇が数多く咲いている」
「機会があれば……
見に来るといい」
それが、
俺と彼女の最初で最後の会話だった。
――久しぶりの、
家族揃っての食事。
そこで、
俺は知った。
あの日、
白夜王国へ届いた眩い閃光。
あれは――
ミスティリアの死。
そして、
“月蝕の王”誕生の光だったのだと。




