孤独な王
妹のミスティリアが
“月蝕の王”
となってから、
彼女へ近付く者はいなくなった。
……否。
正しくは、
誰も近付けなくなったのだ。
あいつの魔力は、
空気そのものを震わせる。
感情に呼応するように、
天候が変わり、
空間さえ歪む。
六精霊王達の加護の影響か、
少しでも魔力を持つ者なら、
本能的に膝をつきそうになるほどの威圧を感じるのだ。
……皆、
あいつを恐れていた。
乳母であるエレノアでさえも。
ミスティリアを見かけたのは、
城下町の視察から、
俺とレインで戻って来た時だった。
「……ひっ、
ミスティリア様……」
エレノアが怯えた瞬間、
ミスティリアは傷付いたように目を伏せた。
「エレノア……
怖がらないでっ……」
「この花を、
貴女へあげようと思って……」
……あの夜は、
世界を大きく変えてしまった。
ミスティリアが強大な力を持って蘇ったことで、
ルシエラと母上が罪に問われることはなかった。
だが、
現行犯であり、
乳母でありながら裏切ったエレノアへ、
処罰を求める声は多かった。
それでも、
ミスティリアは言ったのだ。
「エレノアを傷付けるなら、
私は王になりません」
……その一言で、
エレノアは無罪放免となった。
だが、
月蝕の王であるミスティリアが、
幻影帝国の王となれば、
大陸の均衡は崩れる。
誰もが理解していた。
あいつは、
もはや一人の少女ではない。
“世界そのものを揺るがす王”
なのだと。




