私の月が消えた日
あの命令が下されてから、
次の月蝕までは、
そう日数はありませんでした。
そして今日は、
月蝕。
――愛するミスティリア様を、
裏切る日。
紫の花々が咲き誇る、
月影の塔。
ミスティリア様は、
静かにそこへ佇んでおられました。
「……エレノア?」
……何故。
何故、
そんなにも安心したようなお顔をされるのですか。
――私には、
この方を殺すことなど出来ない。
私の手に握られていたのは、
あの銀の短剣。
きっとミスティリア様は、
全て気付いておられたのでしょう。
王室の思惑も。
そして、
私が貴女様を裏切ろうとしていることも。
震える私へ、
ミスティリア様はゆっくり近付かれました。
そして、
私の手へ優しくその手を重ね、
真っ直ぐ見つめられたのです。
「ごめんなさい……!」
「ごめんなさい、
ミスティリア様……!!」
涙で視界が滲む中、
ミスティリア様は悲しそうに微笑まれました。
「……エレノア」
「貴女は、
幸せにならないといけない」
「……そう言ったでしょう?」
気付けば、
銀の短剣はミスティリア様の手の中にありました。
月光が差し込む塔の中。
ミスティリア様は、
ご自身の胸へ短剣を突き刺し――
月蝕の空へ、
身を投げられたのです。
私の視界から消える瞬間。
あの方は、
確かに微笑みながら仰いました。
――愛してくれて、
ありがとう。
……幸せを願ってくださった、
我が子のようなミスティリア様を、
私は守ることが出来なかった。
世界が闇へ包まれた日。
私の“月”が、
消えた日。
……私も、
後を追おう。
そう思った――
その時でした。




