妹
アレス様とレイン様は、
王城内の礼拝堂へいらしておりました。
次の月蝕の夜に起こる“悲劇”について、
お二人とも心を痛めておられたのです。
静寂に包まれた礼拝堂で、
先に口を開かれたのはアレス様でした。
「……なぁ、レイン」
「ルシエラの言う通り、
ミスティリアは俺達を魅了しているのだろうか」
レイン様はしばらく沈黙した後、
静かに答えられます。
「……分からない」
「あれほどの力を持っていれば、
魅了など容易いのかもしれない」
「だが」
「それなら、
わざわざ城下町へ下り、
国民を助けて回る必要があるか?」
アレス様は小さく目を見開かれました。
「確かに……」
「そんなことをしなくとも、
魅了の力を使えば、
皆を味方に出来るはずだ」
「あぁ」
「それに、
人々の誤解が解け始めたのも、
デビュタント以降、
ミスティリアが公の場へ姿を現すようになってからだ」
「普通なら、
デビュタントの場で魅了し、
皆から歓迎されたいと思うものだろう」
「……だが、
あの日ミスティリアを祝福しに訪れたのは、
精霊王達だけだった」
「それならば……」
「……あぁ」
そして、
お二人は同時に気付いてしまったのです。
「「彼女は、
忌み子でも怪物でもない……!」」
――ですが。
その時には既に、
全てが遅かったのでした。
ルシエラ様の思惑通り、
歯車は回り始めていたのです。
もう、
誰にも止められぬほどに。
お二人も、
それは理解されていました。
今ここで自分達が介入すれば、
ミスティリア様の立場を更に危うくしてしまうこと。
そして、
自分達までもが粛清対象となり得ることを。
――それでも。
この日初めて、
アレス様とレイン様は、
ミスティリア様を
“妹”
として認めたのでした。




