契約なき王
俺は、
幻影帝国建国より遥か昔から、
この世界を見守り続けてきた。
最古の精霊。
闇を司る王、
ノクティス。
……だが。
これほどの魔力を持ちながら、
あれほど清らかな魂を持つ者が、
かつて存在しただろうか。
多くの者は、
力を得れば心を濁らせる。
欲に溺れ、
他者を見下し、
やがて光を失っていく。
――だが、
ミスティリアは違った。
彼女は生まれた時より、
月影の塔へ閉じ込められ、
家族からも、
国民からも、
“忌み子”として恐れられてきた。
それでもなお、
何故あれほど人を愛せるのだ。
彼女が産声を上げた夜、
空から光は消えた。
あれは災厄ではない。
――王の誕生を、
闇が祝福したのだ。
精霊達は皆、
待ち続けていた。
“月を継ぐ者”が、
この世界へ現れる瞬間を。
だから俺は考えた。
皆から忌み嫌われる彼女へ、
精霊達だけでも祝福を与えようと。
ミスティリアが、
初めて公の場へ姿を現すその日に。
六精霊王全てで、
迎えに行こうと。
……我らは、
ずっと彼女を見守っていた。
だが、
実際に彼女を前にした瞬間、
俺は初めて知ったのだ。
この胸の高鳴りを。
きっと、
他の精霊王達も同じだったのだろう。
力が理解していた。
彼女こそ、
“月を継ぐ者”
真なる王であると。
……だが。
ミスティリアは、
王になることを望まなかった。
権力にも。
精霊王達からの忠誠にも。
何一つ興味を示さなかった。
彼女はただ、
愛を与えたかったのだ。
愛されたかった少女は、
誰かを愛することだけは、
やめられなかった。
……故に、
我らは契約を交わせなかった。
もし、
あの時契約を交わせていたなら。
俺は、
後悔せずに済んだのだろうか




