第3話 第二王子エルネンは、王を探す
ラスト3話ですー
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磨き上げられた冠は、頭の上で輝いた。
長く空席だった玉座にどっかりと座り、男は呟いた。
「意外と座り心地が悪いな。」
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空は、新たな王を歓迎するかのような青空だった。
「——陛下、国王陛下。」
戴冠式が終わった午後のことだった。エルネンは、城の庭園に呼び出されていた。
なりたてほやほやの王を探して、カツカツと急ぎ足で中へ進んだ。
今日は、忙しいのに。
「テオール陛下、早く出てきてください。」
庭園は、静かだ。
招待された者たちは城の中だし、従者やメイドたちもバタバタと駆け回っているだろう。
庭園には、その王以外誰もいないはずだった。
「兄上、どこにいるのです。」
土にはまだ何も咲いていないが、この先には森へと続く並木があって——
エルネンは思わず、足を止めた。
規則正しく並んだ並木には、ピンク色の花が満開だった。
足元にも花びらが降り積もり、空を覆うように咲き乱れる花々を、一人の女騎士が、静かに見上げていた。
「……リリー?」
サアっと心地よい風が吹いて、花びらが舞った。背中まで伸びた銀髪を靡かせ、女は、振り返った。
「エルネン様、ずいぶん大きくなりましたね。」
リリー、どうして——
花びらが、蹴り出す足元で踊った。息を乱す僕を見上げて、彼女は目を細めた。
「テオール陛下より大きくなったのではないですか。それにその瞳、美しいですね。」
言いかけた言葉を、グッと飲み込んだ。
「……あまり、気に入ってはいないんだけど。」
エルネンの瞳は、翠玉色に光を反射する。ドラゴンの魔法はまだ、両目に宿っていた。
「そうなのですか。綺麗ですよ、私は気に入りました。」
彼女はまた、木々を見上げた。そして、良かったと、呟いた。
「魔法は、使わなかったのですね。」
「……後悔のない人生などないと、君の言葉を思い出したんだよ。」
エルネンは、この後悔を抱えたまま生きていくことに決めたのだ。
思い出せば、相変わらず胸が締め付けられた。しかし、君たちとの思い出も捨てがたい。
イリヤも、新しい人生を歩み始めているかもしれないし——
「だけど、隻眼をお揃いにしてもいい。瞳の色は、惜しかったな。」
彼女は笑った。
「冗談でしょう。」
ぎこちなく引き攣る頬に、手を伸ばした。
左目は、薄い青だ。透き通るほどに淡い。
右目は、閉じていた。それを縦に通り頬を裂き、まだ赤い傷痕が、口の脇までまっすぐに伸びていた。
「君も、綺麗だ。」
傷跡を、ソッとなぞった。
「相変わらず、無神経な人だなあ。」
ザアっと風が強く吹いて、花びらに誘われるように、彼女は僕から離れた。
長い銀髪で顔が隠れて、表情は見えない。
「もう、行かないと。」
「どこに。」
「……どこって。」
僕は、彼女の手を取って跪いた。
「王子様がそんなことをしてはいけませんよ。」
「僕はもう、王子じゃないよ。」
彼女は、困った顔で首を傾けた。水色の瞳が、ピンクを映してユラユラと揺れていた。
「これからは、僕が北部を守るよ。ついてきてくれるかい。」
右目を貫く傷が美しくて、この人を守ろうと思った。
「私が、貴方様の右目となりましょう。」
エルネンは、リリアーナの手の甲にキスをした。
「……じゃあ、行きましょうか。」
彼女はその手を引き、僕を立たせた。銀髪で隠れて、顔は見えない。
言葉にはしないと、決めていたのに——
「どうして、僕を追ってきてくれなかったんだよ。ずっと、待っていたのに。」
風は柔らかく、花と共に彼女の銀髪を撫でた。
「……私も、会いたいと思っておりました。」
色づいた頬に、花びらが引っ付いていた。
「さ、行きましょうか。」
パッと離された手を再び掴んで引き寄せ、力いっぱい抱きしめた。




