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ドラゴンを斬った女の初恋  作者: 9iyus
第七章 王子と騎士
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第3話 第二王子エルネンは、王を探す

ラスト3話ですー

***


 磨き上げられた冠は、頭の上で輝いた。


 長く空席だった玉座にどっかりと座り、男は呟いた。


「意外と座り心地が悪いな。」


***


 空は、新たな王を歓迎するかのような青空だった。


「——陛下、国王陛下。」

 

 戴冠式が終わった午後のことだった。エルネンは、城の庭園に呼び出されていた。


 なりたてほやほやの王を探して、カツカツと急ぎ足で中へ進んだ。


 今日は、忙しいのに。


「テオール陛下、早く出てきてください。」


 庭園は、静かだ。


 招待された者たちは城の中だし、従者やメイドたちもバタバタと駆け回っているだろう。


 庭園には、その王以外誰もいないはずだった。


「兄上、どこにいるのです。」


 土にはまだ何も咲いていないが、この先には森へと続く並木があって——


 エルネンは思わず、足を止めた。


 規則正しく並んだ並木には、ピンク色の花が満開だった。


 足元にも花びらが降り積もり、空を覆うように咲き乱れる花々を、一人の女騎士が、静かに見上げていた。


「……リリー?」


 サアっと心地よい風が吹いて、花びらが舞った。背中まで伸びた銀髪を靡かせ、女は、振り返った。


「エルネン様、ずいぶん大きくなりましたね。」


 リリー、どうして——


 花びらが、蹴り出す足元で踊った。息を乱す僕を見上げて、彼女は目を細めた。


「テオール陛下より大きくなったのではないですか。それにその瞳、美しいですね。」


 言いかけた言葉を、グッと飲み込んだ。


「……あまり、気に入ってはいないんだけど。」


 エルネンの瞳は、翠玉色に光を反射する。ドラゴンの魔法はまだ、両目に宿っていた。


「そうなのですか。綺麗ですよ、私は気に入りました。」


 彼女はまた、木々を見上げた。そして、良かったと、呟いた。


「魔法は、使わなかったのですね。」


「……後悔のない人生などないと、君の言葉を思い出したんだよ。」


 エルネンは、この後悔を抱えたまま生きていくことに決めたのだ。


 思い出せば、相変わらず胸が締め付けられた。しかし、君たちとの思い出も捨てがたい。


 イリヤも、新しい人生を歩み始めているかもしれないし——


「だけど、隻眼をお揃いにしてもいい。瞳の色は、惜しかったな。」


 彼女は笑った。


「冗談でしょう。」


 ぎこちなく引き攣る頬に、手を伸ばした。


 左目は、薄い青だ。透き通るほどに淡い。


 右目は、閉じていた。それを縦に通り頬を裂き、まだ赤い傷痕が、口の脇までまっすぐに伸びていた。


「君も、綺麗だ。」


 傷跡を、ソッとなぞった。


「相変わらず、無神経な人だなあ。」


 ザアっと風が強く吹いて、花びらに誘われるように、彼女は僕から離れた。


 長い銀髪で顔が隠れて、表情は見えない。


「もう、行かないと。」


「どこに。」


「……どこって。」


 僕は、彼女の手を取って跪いた。


「王子様がそんなことをしてはいけませんよ。」


「僕はもう、王子じゃないよ。」


 彼女は、困った顔で首を傾けた。水色の瞳が、ピンクを映してユラユラと揺れていた。


「これからは、僕が北部を守るよ。ついてきてくれるかい。」


 右目を貫く傷が美しくて、この人を守ろうと思った。


「私が、貴方様の右目となりましょう。」


 エルネンは、リリアーナの手の甲にキスをした。


「……じゃあ、行きましょうか。」


 彼女はその手を引き、僕を立たせた。銀髪で隠れて、顔は見えない。


 言葉にはしないと、決めていたのに——


「どうして、僕を追ってきてくれなかったんだよ。ずっと、待っていたのに。」


 風は柔らかく、花と共に彼女の銀髪を撫でた。


「……私も、会いたいと思っておりました。」


 色づいた頬に、花びらが引っ付いていた。


「さ、行きましょうか。」


 パッと離された手を再び掴んで引き寄せ、力いっぱい抱きしめた。


 

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