第4話 進め!恋の大行進!?〜初冬の香りを乗せて〜
雲行きが怪しくなってきた。黒っぽい積乱雲からは、ゴロゴロと不穏な音がする。
エルネンは、空を仰いで呟いた。
「傘を、持ってくるべきだったかな。」
「確かに。」「傘で防げますか?」
護衛二人は流れてくる矢を鬱陶しそうに払い除け、それに答えた。
前進を続けるチーム反逆者だったが、だんだんとそのスピードは落ち、ついには止まった。
「進め、門を開けろ!」
テオールの怒号が、喧騒に紛れ、遠くで聞こえた。
兵の層は横へ広がり、これ以上踏み込むと、混戦の中だ。しかし、外城の門はもうすぐそこだった。
「そうは言ってもなあ。どうしてステラはいないんだろ。」
「……昨日、けっこう飲んでたからね。」
二人はうーんと首を傾げると、フゥと息を吐き出し、動き出す。
リリアーナは、混沌の砂煙の中に走り出した。アリストラは矢をいっぱいに握りしめ、弓を引く。
「エルネン様、自慢になると思って言わなかったのですが、同時に複数の魔法陣を操れる魔法使いは珍し——」
「わかったわかった。」
そんなことを言ってる間に、剣士の方は早速囲まれている。慌ててエルネンもそこへ飛び込んだ。
「リリー、後ろ!」
「ん?」
振り向いた頭を狙う長槍。パッと魔法陣が現れ、矢が、大男の額を射抜いた。
「行けるとこまで、行ってみましょうか。」
パッパッパッと、赤い魔法陣が現れ、死角の攻撃を防ぎ、矢が貫く。
その魔法陣の間から飛んでくる刃を、受けて、押して、斬って。受けて、斬って、防いで。
その間から魔法陣がパパッと現れると、矢が兵士を狙い、それを崩して、斬って、受けて、斬って——
「……ちょっと休憩しませんか。」
膝に手つき歯を食いしばる銀髪の上を、魔法陣の矢が通り抜け、後ろの兵士を突き刺した。
「これは確かに、見事だね。」
「……魔法陣ですか。一人前の魔法使いは、もっと大きな魔法陣を描くんですよ。」
ジリジリと後退る僕たちは、背中がついに合わさった。
周りは敵味方、降る矢、襲う刃。鳴り止まない怒号、叫び、馬の嘶き、余計に巻き上がる砂煙。
景色は変わらないし、まったく進んだ気もしない。
その中に、光を見つけた。
「こんな風に?」
魔法陣だ。大きさは、人一人分か。ライムグリーンに光を放つ。
パッと地面に、空に、馬の陰から、目の前に。
パッパッパッと色とりどりのパステルカラーがそこかしこに現れ、戦場を彩る。
「うぐっ……。」
焦るリリアーナに首根っこを掴まれ、ザリザリと来た道を引き返される。
「下がれ、下がれ!」
叫ぶアリストラの声が、近くなってきた。だいぶ奥まで進んでいたらしい。
自軍は一歩後退して、その光景を大人しく見ているようだ。
せっかく、ここまできたのに。
——ヒュッ
目の前を、一本の矢が通った。
「危ないところでしたね。」
「ほんと、自分勝手な人たちなんだから。」
——ヒュンッ、ヒュンッ
魔法陣の間を、矢が交差する。行ったり来たり。
矢はだんだん増えていき、何百、何千もの矢が四方八方から敵陣に向かって交差する。
——ババババ、ババババババババ
風が強くて、何も聞こえないような。台風みたいな音だった。
魔法陣に囲まれた敵兵は、袋の鼠だ。バタバタと、倒れていった。
——ドォォン、ドォォォン
曇り空に、ド派手な花火が打ち上がった。
「……魔法の絨毯だ。」
誰かが呟いた。みんなポカンと、空を見上げる。
空から現れた巨大な絨毯は、阻む者のなくなった門の前に、フワリと着地した。
白いローブの女たちが一人ずつ降り立った。全部で十二人。
最後に現れた黒いローブの女が、パッと門に手をかざす。すると、ジジ…、と魔法陣が焼きついた。
——ドゴォォン
門の扉は、奥に向かって吹っ飛んでいった。周辺にいた兵も一緒に飛んでいったようだ。
「……戦場はうるさいね。私は二日酔いで、機嫌が悪いんだよ。」
魔女ステラだ。気怠そうに葉巻を咥えると、やれやれと門の中に入っていった。
白いローブの魔女たちも、スタスタとそれについていく。
兵たちは、ハッと気を取り戻すと、慌てて後ろに続いていった。
「遅れてきたくせに、何を言っているんだあの人は。」
「なんで花火を上げたんだろ。あれが一番うるさかったよね。」
エルネンは、いつもと同じ調子の弟子二人に笑ってしまった。
「頼もしいなあ。」
「ステラたちが?」
「君たちがだよ。」
アリストラとリリアーナは顔を見合わせ、なんとなく神妙な顔を作って、門をくぐった。
ご覧いただきありがとうございました。次回もお付き合いいただけましたら歓喜します。〜初夏の香りを乗せて〜




