第8話 銀髪の女騎士リリアーナは、星を見上げる
読んでいただきありがとうございます。第5章、最終話です。
リリアーナが目覚めたのは、真夜中だった。
エルネンと、おでこをくっつけ、ほとんど裸で抱き合って眠っていた。暖炉の火はチリチリと、消えかかっていた。
「王子様を、凍死させるところだった。」
寒かったのか、ガッチリと捕まえられている。腕はそのままにして、下から潜り抜けた。
乾いた服を着て、火を再び焚き、ソッと外に出た。
風は止んでいて、静かだ。
冷たい空気が鼻から指先まで通ると、フッと体が軽くなった気がした。
少し曲がった煙突の先、煙が上がっているのを確かめる。朝になれば、皆これを追ってくるはずだ。
「……しかし、裸をあんなに無遠慮に触るとは。」
どう考えても、女としては見られていない。
それでも、構わなかった。
「……リリー?」
「起こしてしまいましたか。日が昇るまで動けませんから、まだ眠っていてください。」
エルネンは、ひょこひょこと足を庇ってこちらに来た。雪に、バランスの悪い足跡がつく。
「足は、どうですか。」
「治った。」
「そんなわけ。」
目が覚めてしまったのだろう。倒木に腰掛けると、トントンと、横に座るよう私を呼ぶ。
「外の方が、明るいんだね。」
昔、自分もオリビアに同じことを聞いた。
「雪が、月明かりを反射するのですよ。」
そのせいで、雪が積もると、北部は昼も夜も関係なく戦闘が続くらしい。
まだ、山の下は降っていないが。
「絶対に、雪が積もる前に終わらせて帰りましょうね。」
エルネンは、それには答えない。
「星が、綺麗だね。」
「それは、水蒸気が。寒い方が空気が澄んでいるからで。なんで、私の顔を見ているのです。」
「……いや。」
二人は、夜空を見上げる。
「リリーは、よく星を眺めているね。」
「エルネン様は、星は、嫌いですか。」
この王子は、夜道はいつも、空から逃げるように俯いて歩いた。星空が、苦手なのだと言った。
「……王国では、亡くなった人は星になるといわれているんだ。亡き姉や母上が、イリヤが、僕のことを見ていると思うと、夜は眠れなくなってしまって。」
見守ってくれているという考えにはならなかったらしい。
少年は、生き残った罪悪感を抱えながら、眠れない夜を過ごしていたのだ。
「……ステラの考えでは、魂は消えず、他の世界で生を繰り返すのだそうです。」
転生だ。
子供たちへの、傭兵団の洗脳みたいなものだと思っていた。都合の良い、大人の教え。
アリストラの話を聞くまでは。
あいつはあの時私に、自分は別の世界からやってきたのだと言った。
「…………イリヤ・エリオールも、異世界で楽しんでいるかも。生き返らせたら、怒るかもしれませんよ。」
この名前だけは、出したくなかったのに。
自分が情けなくて、まつ毛についた水滴が、星の光を大きくした。
エルネンはしかし、そんな思いなど知らないに違いない。いつもの調子で、のんびりと言った。
「そうかなあ。そう思うと、もっと気楽に生きてもいいのかもしれないね。」
この人生は、繰り返すうちの一つでしかない。
「このまま全て投げ出して、どこかへ行ってしまおうか。」
「どこかって、どこに?」
「どこでもいいよ、君となら。」
「え?」
「ついてきてくれるかい。」
エルネンは、そんな無責任なことはしない。この人生を、この国のために捧げるだろう。
これは、ほんの冗談だ。それでも———
「もちろん、どこへでも行きましょう。」
リリアーナはこの瞬間を、この先忘れない気がした。
二人はその後も、夜空を見上げていた。
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