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ドラゴンを斬った女の初恋  作者: 9iyus
第五章 旅立ち
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第7話 第二王子エルネンも、寒いのは得意

 そこは小さくて簡素な山小屋に見えたが、中に入ると、暖炉があり、本棚があり、ベッドがあった。


「若いステラは、怪我を負って、ここに何年か隠れ住んでいたのだそうです。」


 すぐにでも暮らせそうな生活感がある。弟子たちがここを拠点に、今でも薬草集めに来ているのだという。


 エルネンは、暖炉におこした火をボーッと見つめる友人が、ゼンマイが切れる寸前であることを悟った。


「リリー、疲れているんだろう。何をすれば良いか言って。」


「では、そこを動かないで。」


 沸いた湯を足元に、服を脱がされた。


「リリーのエッチ。」


「風邪をひきたくなかったら、大人しくしていてください。」


 体を拭かれ、傷の手当てをされる。


 触れる指先は冷たいのに、肌にかかる息は温かい。無意識に、呼吸が浅くなる。


「足、痛くはないですか。」


「痛くはないけど、感覚がおかしくて。」


「寒くて麻痺しているのでしょう。骨は大丈夫そうだけど。」


 温まったら痛むからと、雪をとりに立ち上がった彼女の手を掴んだ。


「いいや、ここにいて。」


 グッと手を引くと、そのまま床にへたり込んでしまった。


「……昨日は追想の術もどきで眠れないし、今日は崖から落ちるしで、もう、ヘトヘトで。」


 さっきやってもらったように、体を拭き、傷に薬を塗っていく。


 火の粉のはぜるパチパチという音が、やけに耳に響いた。


「痛くないかい。」


「自分でできますから。」


「背中、触っていい?」


「だめです。」


 空中から落っことされた僕と違い、崖を擦って降りて来た彼女の体は、傷だらけだった。


「放っておいて構いません。今更小さな傷が増えたところで。」


 くすぐったいのかたまに身を捩ったが、抵抗する元気もないようだった。


 立て付けの悪い扉が、ガタガタと風で音を立てた。


「寒いですね。」


 積荷の毛布を被って、そのまま彼女を抱きしめた。


「……エルネン様、昨日は、ゆっくり眠れましたか。」


 リリアーナは身をぐったりと預け、僕の腕の中で、こっくりこっくりと頭を揺らし始めた。


「二人きりの時は、敬語をやめてと言ったのに。」


「そんなこと……。」


 彼女は静かに、寝息を立て始めた。


 エルネンは、ソッと彼女の背中の傷を撫でた。


 銀髪の剣士は、幼い日を思い出す。夢の中だ——


***


 リリアーナは、あの日もこの場所で、火を前に二人くっついて毛布にくるまり、寒さを凌いでいた。


 アリストラの体温は高く、一緒にいるとすぐ眠くなった。


「オリビアは、一体どこまで行ったんだか。ドラゴンに、やられちゃったんじゃないの。」


 明日こそ、探しに行った方がいいだろうか?


 ウトウトする私に、アリストラは言った。


「リリー。これは、誰にも。オリビアにもステラにも言ったことがないんだけど。」


「なあに?」


 それは、なかなか面白い話だった。


「だから、その時は俺に協力して欲しいんだ。」


「わかったよ、アリス。約束しよう。」


「これが、俺の今回の人生の目標なんだ。」


 昔の約束だ。その時それを冗談だと思ったのだったか、不思議なこともあるものだと信じたのだったかも覚えていない。


 ずっと忘れていたのだ。


 それに気がついたのは、つい最近だった。


 クレマチスが戦死したと聞いて、悲しみと同時にゾッとした。


 物語は、進んでいる。そして私たちは、その歯車に噛んでいる。



読んでいただきありがとうございました。次話で、第5章最終話です。

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