不測の真実
登場人物
丘坤…………美質な弓の名手。妖しの狻猊を僕に持つ。萬軍八極のひとり。
介象…………方士。干将、莫邪、眉間尺の三剣を佩びる。
元緒…………方士。介象の師であり、初代の介象。
藺離…………槍の手練者。妖しの火鼠を僕に持つ。萬軍八極のひとり。
欧陽坎…………矛の手練者。妖しの短狐を僕に持つ。萬軍八極のひとり。
巩岱…………細作。介象に仕える。
娄乾…………萬軍八極のひとりと思しき富豪。
韋震…………賊徒のような身形の若者。
尊盧…………妖し。黄色い瞳の武者。蚩尤に仕える九黎のひとり。
蚩尤…………邪神。
季平…………魯国の司徒。三公のひとり。三桓氏と呼ばれる。
叔孫豹…………魯国の司馬。三公のひとり。三桓氏と呼ばれる。
孟献…………魯国の司空。三公のひとり。三桓氏と呼ばれる。
陽虎…………三公に仕える魯国の若き重臣。
蒼頡…………妖し。剣の手練者。蚩尤に仕える九黎のひとり。
風沙…………妖し。美貌の持ち主。蚩尤に仕える九黎のひとり。
太皞…………妖し。老婆の姿。蚩尤に仕える九黎のひとり。
赫胥…………妖し。短槍の手練者。蚩尤に仕える九黎のひとり。
夸父…………巨人の妖し。性質は狂暴。隻眼で緑の皮膚。
「赫胥も生娘の生き血を飲んだら良いじゃない。そんな傷、たちどころに癒えるわ。自分の霊気だけで傷を癒すなんて、只の労力よ」
呆れた調子で云った風沙は、美貌に憐れみの色を浮かせた。
「……介象が……代わっている。以前の介象ではない……」
「――――⁉」
居合わせた九黎の蒼頡、風沙、太皞は、顔色を変えた。
「知っている。今は二代。初代も名を変え共にいるはずだ。その介象と鉢合わせたのか、赫胥?」
態度を変えず、赫胥を睨み据えたのは、蚩尤だった。
「剣技も図抜けているが……霊気の底がない……。極め付けは……」
爛れた顔を蚩尤と九黎に向け、赫胥は告げた。
「霊獣の朱雀を繰る――」
「――――⁉」
「な、何と――⁉ 妖しの類ではなく、霊獣の朱雀とな――⁉」
老婆の太皞がわなわなと顫えていた。
「……初代とは、少し違うようですな、蚩尤さま?」
蒼頡は、落ち着いた様子で蚩尤に尋ねた。
「ああ。霊獣か。どうやって僕にしたかわからぬが、これで赫胥の傷も頷ける。お前も見たのか、尊盧?」
蚩尤は、鋭い視線を尊盧に遣った。
「え、ええ。赫胥どのは、火鼠と短狐を操る萬軍八極と対峙した末、狻猊を繰る八極に加え、介象と交戦しておりました。私が連れ帰った女子は、狻猊を僕とする八極……」
「介象がどうだったかを聞いている」
蚩尤は、尊盧を睥睨した。
「は、はい。……以前の介象では見られなかった技を繰り出しておりました。初代の姿は……確認しておりませぬ」
蚩尤に気を飲まれたような尊盧は、及び腰となって答弁した。
「…………」
「少々、厄介ですな」
玉座の脇に侍る蒼頡が放ったのは、静かな声音だった。




