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報仇の剣 -萬軍八極編-  作者: 熊谷 柿
第6章 信星
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不意の悪辣

登場人物

丘坤きゅうこん…………美質な弓の名手。あやかしの狻猊さんげいしもべに持つ。萬軍八極ばんぐんはっきょくのひとり。


韋震いしん…………賊徒のような身形みなりの若者。

尊盧そんろ…………あやかし。黄色い瞳の武者。蚩尤しゆうに仕える九黎きゅうれいのひとり。

 心は痛まなかった。これから自分がしようとしていることより、もっと悪辣あくらつなことをする高官がいることを知っていた。

 何事も強い奴が手に入れるのではない、手に入れる奴が強いのだ――。

 いつしか韋震いしんは、そう思うようになっていた。

 韋震は、尊盧そんろの云い付けに従って介象かいしょうの一行を追跡し始めてから、自分自身も何者かに見張られている気配を察していた。

 だが、その気配が突然消える。それが二、三度続いた。恐らく、目障りな者を尊盧が始末しているのだろう。韋震は、消える気配の数が増える度にほぞが固まった。

 一行は、陽が沈む前に寝床を作る。それも、木々が生い茂り、近くに水が流れる場所を好んだ。不思議な術を使い、またたく間に木立の枝へ部屋をこしらえる。

 その木立の部屋を寝床にするのは、決まって介象と丘坤きゅうこんだった。

 同道するようになった藺離りんり欧陽坎おうようかんは、夜更けまで見張り番のように振舞い、どういう訳か野宿だった。

 そのような中に、韋震が見出した機会があった。

 清拭せいしきにでも使うのだろうか。丘坤は、決まってひとりで水を汲みに行く。

 韋震は、桶を持った丘坤が一行から離れるのを認めた。先回りすると、腹を押さえて倒れ伏し、渋面を作って大げさにうめいてみせた。

「ううう……痛っ……ううう……」

 近付いてくる人の気配が、呻き声に気付いたように駈け寄った。

「大丈夫ですか――⁉」

 女の声だった。身を寄せて介抱しようとしている。

「だ、大丈夫だ……」

 声を震わせた韋震は、腹を押さえてふらつきながら立ち上がった。

 心配げな面持ちをしている。韋震に手を貸そうとした丘坤は、まるで無防備だった。

 刹那せつな――。

 韋震の繰り出した鉄拳が、丘坤の鳩尾みぞおちしたたかに撃った。

「――――⁉」

 気を失った丘坤は、なよと韋震に身を預けるように倒れた。頭から落ちたのは、かんざしだった。

 その丘坤を担ぎ上げた韋震は、近くの木立の陰まで走った。丘坤を地に寝かせると、慌てた様子で辺りを見渡しながら小声で叫んだ。

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