取引の賊徒
登場人物
韋震…………賊徒のような身形の若者。
尊盧…………妖し。黄色い瞳の武者。蚩尤に仕える九黎のひとり。
「な、何だ、何なんだ……? 奴ら、普通じゃねえ……」
木立の陰から草叢に紛れるようにして、異能の者たちの争いに眼を円くしていたのは、賊徒のような身形の若者だった。
「こりゃあ、関わらねえ方が身のためってもんだ」
草叢に伏した若者が、身を起こそうとしたときだった。
「こんな処で何をしている?」
「――――⁉」
はっとして振り返った若者は、驚きの顔を晒すと尻餅を突いて後退った。
奇妙にも黄色い瞳だった。浅黒い肌の身に豪奢な兜と鎧を纏い、矛を引っ提げた武者姿の尊盧だった。
尊盧は、黄の瞳で賊徒の若者を凝視すると、その面貌に不気味な笑みを浮かせた。
「あの一行から、何か金目の物でもくすねようと様子を窺っていたのであろう?」
「…………」
賊徒のような若者は、尊盧の心中を量るように黄色い瞳を見詰め返した。
「貴様のような野鼠、殺すことなど造作もないが、良い眼付きをしている。此の儘、殺すには惜しいな。貴様、名は?」
矛の穂先を若者の顔に突き付けると、尊盧は質した。
大きく眼を見開いた若者は、生唾を飲み込んでから名乗った。
「い、韋震……」
「良かろう、韋震。あの女を一行から連れ去り、私の許まで連れて来い。然すれば、この尊盧が、我が軍の兵に取り立ててやる」
その日暮らしのような韋震にとって、悪い話ではなかった。奇妙な一行が対手ということに躊躇した。しかし、女ひとりであれば何とかなるだろうと考え直した。
「……わかった」
尊盧を見詰め返したまま、韋震は応じた。
矛の切っ先が韋震の眼前から離れた。不気味な笑みを濃くして尊盧は告げた。
「私は、常にお前を見ている。決して約束を違うでないぞ、韋震」
「…………」
韋震が力強い頷首を返すと、尊盧の姿は風に紛れるように消えていた。
それからというもの――。
三人の従者を引き連れた、若い女方士の一行に見える。
韋震は、介象の一行を付け狙った。細心の注意を払って尾行していた。普段は賊徒の真似事をしている。少々の洞察力も身に付いていた。尊盧と遭遇する前から一行の様子は窺っている。数こそ少ないが、女を攫う機会は確かにあった。




