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報仇の剣 -萬軍八極編-  作者: 熊谷 柿
第6章 信星
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凶事の兆し

登場人物

丘坤きゅうこん…………美質な弓の名手。あやかしの狻猊さんげいしもべに持つ。萬軍八極ばんぐんはっきょくのひとり。

介象かいしょう…………方士。干将かんしょう莫邪ばくや眉間尺みけんしゃくの三剣をびる。

元緒げんしょ…………方士。介象の師であり、初代の介象。

藺離りんり…………槍の手練者。妖しの火鼠かそを僕に持つ。萬軍八極のひとり。

欧陽坎おうようかん…………矛の手練者。妖しの短狐たんこを僕に持つ。萬軍八極のひとり。

巩岱きょうたい…………細作しのびのもの。介象に仕える。


韋震いしん…………賊徒のような身形みなりの若者。

尊盧そんろ…………あやかし。黄色い瞳の武者。蚩尤しゆうに仕える九黎きゅうれいのひとり。

「おい! 出て来てくれ、尊盧そんろさん! 約束どおり、女をさらったぞ!」

 すると――。

 風が運んできたように、尊盧が現れた。

「良くやったな、韋震いしん

「早く此処ここから立ち去らねえと、気付かれちまうぞ!」

 韋震は、まくし立てるように尊盧へ小声を発した。ふと、露わになった丘坤きゅうこんの右腕に眼が行った。八つの角がある黒いあざが眼に付いた。

「云われなくともわかっている」

 尊盧は、右手の中指に人差し指を重ねると、胸の前に突き出し何やら念じた。

 風が吹いた。

 尊盧と韋震、そして、丘坤の姿が消えていた。


 陽が沈む頃のことだった。

「おや? 丘坤の姿が見えぬが……」

 焚火の周りに集った藺離りんり欧陽坎おうようかんを前に、介象かいしょうの肩で元緒げんしょが辺りを見渡した。

 葦毛あしげの駒には、烏号うごう矢嚢やのうくくり付けられている。

「水を汲みに行ったようですが、しばらく経ちますな。欧陽坎、水辺の当たりを見て来てくれ」

 藺離は、長髯を扱きながら欧陽坎に目配せした。

「応よ。夕飯が遅くなっちゃあいけねえからな」

 欧陽坎は、率先して腰を上げると、丘坤の名を呼ばわりながら水辺に向かった。

 その時――。

「――――⁉」

 何時いつから其処そこに居たのかわからなかった。気付けば、介象の背後に全身黒尽くめの者が拝跪はいきしている。顔も黒い布に覆われ、眼だけが露わになっていた。

「何者――⁉」

 藺離は、弾かれたように腰を浮かせると、得物の槍を身構え、黒尽くめの者の所作に神経を張り巡らせた。

「問題ない、藺離。この者は、俺に仕える細作しのびのもの巩岱きょうたいと云う」

 巩岱は、膝を折ったまま藺離にからだを向けると、一礼を施した。

 ほっと胸を撫で下ろした藺離は、静かに腰を下ろした。

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