惜別の兄弟
登場人物
藺石…………藺家の当主。槍の達人。八人の子息を持つ。
藺授…………藺家の長子。苛烈な槍の名手。
藺離…………藺家の次子。槍の手練者。妖しの火鼠を僕に持つ。萬軍八極のひとり。
藺翼…………藺家の三男。豪快な槍術の持ち主。
藺冑…………藺家の四男。鋭敏な槍術の持ち主。
扁鵲…………諸国を放浪する類稀な医の徒。
年季の入った朱槍を携え、白い頭巾と道袍を纏っていた。旅装の藺離は、今や藺家から出立しようとしていた。
そこに集ったのは、別れを惜しむ藺翼と藺冑、そして、四人の弟たちだった。
「本当に出て往くのか、離兄……?」
寂しそうに藺翼が云った。
「ああ」
「こんなの、納得できねえよ」
寂しさを紛らわせるように、そっぽを向いた藺冑が鼻を啜った。
「仕方のないことだ。これも運命というもの」
藺離に微笑が浮いた。門前に集った弟たちをゆっくりと見渡した。
「良く聞け。お前たちは力を合わせ、しっかりと兄上を支えるのだ。そして、槍の藺家を益々大きくせよ」
堪えていた弟たちが、涕泣し始めた。
藺離は、弟たちそれぞれの頭をぞんざいに撫でると、胸を張った。
「さらばだ」
藺離は踵を返した。何の未練もないように門を出ると、一度も振り返ることなく歩み出した。
藺離の弟たちは、その背が小さくなるのを見送っていた。
「離兄……」
めそめそしている藺冑を見遣り、兄の藺翼がその肩に手を置いた。
「大丈夫だ。俺と弟たちがいる」
藺翼は、藺冑に破顔を見せた。
袖で涕を拭った藺冑も破顔を返した。
藺離に往く宛てはなかったが、気のままに進もうと思っていた。もう少し歩けば、城郭から出るところまで来た時だった。後方から響いてきたのは馬蹄だった。
「待て、離――‼」
駈け寄って来た馬の主は、兄の藺授だった。馬速を緩めると藺離の許に駒を寄せた。
「兄上……」
「乗れ。少し送ろう」
藺授は、藺離を誘うと馬に乗せた。ゆっくりと駒が駈け出す。




