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報仇の剣 -萬軍八極編-  作者: 熊谷 柿
第3章 義星
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美徳、天晴

登場人物

藺石りんせき…………藺家の当主。槍の達人。八人の子息を持つ。

藺授りんじゅ…………藺家の長子。苛烈かれつな槍の名手。

藺離りんり…………藺家の次子。槍の手練者てだれあやかしの火鼠かそを僕に持つ。萬軍八極ばんぐんはっきょくのひとり。

藺翼りんよく…………藺家の三男。豪快な槍術の持ち主。

藺冑りんちゅう…………藺家の四男。鋭敏な槍術の持ち主。

扁鵲へんじゃく…………諸国を放浪する類稀たぐいまれな医の

「しっかり掴まっていろよ」

 馬に揺られながら、藺離りんりは幼い頃を思い出した。

 藺授りんじゅが藺離を誘い、しばしば遠駈けしたものだった。掴まった兄の背は、頼り甲斐があった。今やその背は、藺家を背負うほどに大きくなっている。

 馬上での会話はなかった。互いに昔を思い出しているようでもあった。

 しばらく駈けると、藺授は駒を止めた。辺りは既に見渡す限りの原野だった。

 藺離は馬から降りた。藺授も続いて降りると、対峙するように立ち尽くした。

「では、兄上、さらばです」

 藺授がうなずいたのを見届けると、藺離は一礼してきびすを返した。

「既にあやかしをしもべとしていたであろう。本領を発揮すれば、俺に勝っていたはず……。何故なにゆえ、斬られるのをしとした?」

 藺授は、藺離の背に向かってただした。

 その声に歩みを止めた藺離は、おもむろに振り返った。

「私が今こうしてあるのは、兄上のお陰です。兄があなたでなければ、私の槍術もなかったのです。そのような兄上に斬り掛かることなど、私にはできませぬ」

「――――⁉」

 藺離は、にこと微笑むと続けた。

「弟たちも良きたすけとなってくれます。兄上、どうかお元気で」

 藺離は一礼すると、再び踵を返して歩き出した。

「離……」

 つぶやいた藺授は、旅立つ藺離の背をいつまでも見送っていた。気付けばほほなみだが伝っていた。

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